心理サスペンス的な面白さを持った異色の西部劇。
「決断の3時10分」(1957米)
ジャンルサスペンス・ジャンルアクション
(あらすじ) アリゾナで牧場を経営するダンは、ベン・ウェイド率いる強盗団が駅馬車を襲撃する所を目撃する。臆病な彼は何も出来ず、ただ黙って見ていることしか出来なかった。その後、ベン一味は近場の町に立ち寄り、保安官をそそのかして町を牛耳った。一方、ダンは放牧した牛をかき集める道すがら、駅馬車の経営者と町を追い出された保安官に遭遇する。彼等からベン逮捕の協力を求められたダンはそれに仕方なく応じた。その後、難なくベンを逮捕することが出来た。しかし、今度は彼をユタの刑務所まで護送しなければならなくなる。ダンは多額の報酬と引き換えにその仕事を請け負うことになり‥。
goo映画映画生活ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 凶悪強盗犯を護送することになった牧場主の旅を、緊迫感溢れるタッチで描いた異色の西部劇。
ダンは干ばつに陥った牧場を立ち直らせるべく、報酬目当てに強盗団のリーダー、ベンの護送を引き受ける。しかし、いつどこでベンの仲間が襲ってくるか分からない。刑務所行きの列車が来るのは3時10分。それまでに無事に辿り着く事が出来るのか‥というのが本作の見所である。切迫したダンの状況をスリリングに描いており最後まで面白く見ることができた。
このスリリングな演出の肝要を成すのは、ダンとベンのやり取りである。夫々に複雑なキャラクター性を持った魅力的な人物として造形されている。
ダンは決して正義感が強い男というわけではない。愛する家族と牧場を守るため‥という極めて個人的な理由から、この仕事を買って出る。ヒーロー然としていないところに、ある種の親近感をおぼえる。いかにも小市民的なキャラと言えよう。
一方のベンは、悪名高き強盗団のボスである。部下達の人望が厚く、頭も切れる。また、仕事以外ではいたって普通の男で、一見して悪人とは見えない。女子供に対しては優しさを見せることもあり、単純に悪者と割り切る事が出来ない複雑キャラクターになっている。
映画の中盤から、ほぼこの二人のやり取りを中心にして描かれていく。狡猾なベンはダンの弱みに付け込んで、報酬以上の金をやるから自分を解放するよう求めてくる。ダンの心は揺らぐが、天下の極悪人に手を貸したとあってはさすがに良心が痛む。ダンが平凡な男だけに、このあたりの葛藤は実にリアルに見れた。
後半は終始この調子で、二人の心理サスペンス劇になっている。派手な銃撃戦はないが、異色の西部劇といった感じで面白く見れた。
尚、最終的にダンは“ある二つの出来事”でこの迷いを払拭する。これも当然そうなるだろう‥という風に見れた。この決断には実に共感をおぼえた。
ただ、クライマックスのアクション・シーンについては、お世辞にも上手く撮られているとは言い難い。派手さで見せる映画ではないとは言っても、アクション的には唯一の見所となるだけにこの辺りはもう少し頑張って欲しかった。
また、ダンの妻のある行動にも、今ひとつ説得力が感じられなかった。行動に到る動機付けに無頓着すぎる。全編通して1時間半程度の作品なので、非常にコンパクトな作りになっている。メインのドラマには力を入れているが、背景の作りこみまで十分手が回らなかったという印象で、このあたりは実に惜しいという気がした。