映像派作家が創り出す世界観にドップリと浸れる。
「パコと魔法の絵本」(2008日)
ジャンルファンタジー・ジャンルコメディ
(あらすじ) 山の奥深くに佇む病院。そこには少し変わった患者たちが入院していた。傲慢で皆から嫌われている会社役員の老人大貫を初め、自殺願望癖のある元有名子役、オカマやヤクザといったワケあり患者達がいた。ある日、大貫は庭で「ガマ王子とザリガニ魔人」という絵本を読んでいる少女パコと出会う。懐いてくる彼女を初めは邪険にするが、その交友によって大貫の心は次第に癒されていくようになる。
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(レビュー) 後藤ひろひとの舞台劇「MIDSUMMER CAROL ~ガマ王子VSザリガニ魔人~」を、鬼才中島哲也が監督した作品。変わった患者達が入院している病院を舞台に、老人と少女の心の触れ合いをファンタジックに描いている。
ただ、ハートウォーミングなストーリーであることは確かだが、ギャグや映像演出の中には一部毒々しいキッチュさが含まれている。このあたりは見る人を選ぶかもしれない。
ドラマ自体は「美女と野獣」にちょっと手を加えて焼き直したようなものであり、取り立てて目新しさはない。ウェルメイドゆえに広く受け入れられそうな感じはするが、逆に言うとよくあるおとぎ話、押しの弱さも若干感じられる。
まず、ドラマのポイントとなる大貫の改心。ここが性急、且つ説明セリフに頼ってしまうのがいただけなかった。ここは改心に踏み切る何らかの事件、きっかけが最低1回は必要だったように思う。どうしても唐突に映ってしまい、テーマのインパクトが弱まってしまう。また、何故サマー・クリスマスに演劇をやらなければならないのか?そこについても説得力のある根拠が欲しかった。見ている方としては、どうしてもそこに意味を求めたくなってしまう。
逆に、良かったのは中島監督の感性がいかんなく発揮されていた映像とキャラクター達である。
物語は劇中劇の構成を取っており、語り部が話して聞かせる絵本の中の御伽話‥という構造になっている。とは言っても、決して夢見がちなメルヘンチックな世界というわけではなく冒頭で述べたようにサイケデリックでブラックな映像も横溢し、いかにも中島的世界が繰り広げられている。俺などは大人が読む童話‥といった感じで面白く見れた。クライマックスには3DCGアニメも登場してきて大変賑々しくはじけている。このあたりはアトラクション・ムービー的な楽しみ方も出来よう。
また、一癖も二癖もあるサブキャラ達も良い味を出していた。ヤクザとオカマのバックストーリーは魅力的であるし、ドクターとナースのイカレっぷりもテンションが高くて面白かった。
ただ、ややもすれば自演的な騒動に写り兼ねないので、個々の登場キャラにきちんと存在意義を持たせ、この騒動に何の意味があるのか、観客に明確に提示しておく必要はあったかもしれない。人物関係をコンパクトに収める必要はあっただろう。
キャストでは、パコを演じたアヤカ・ウィルソンの愛らしさが印象に残った。カナダ人と日本人のハーフという事で、ファンタジーの世界観に上手くマッチしていたように思う。