イーストウッドが撮った恋愛映画。「ミリオンダラー・ベイビー」の元ネタ(?)的見方も出来る。
「愛のそよ風」(1973米)
ジャンルロマンス
(あらすじ) ヒッチハイクをしながら旅をするヒッピー少女ブリージー。彼女はロスの街をあてどもなく歩き1件の豪勢な住宅に辿り着く。そこには不動産を経営している中年男フランクが住んでいた。彼は妻に見放された孤独な男だった。ブリージーは彼の家に居候することなり、二人は急激に惹かれあっていく。
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(レビュー) ヒッピー少女と孤独な中年男のロマンスを淡いタッチで描いた小品。
C・イーストウッドが初めて監督のみに専念した作品で、唯一の劇場未公開作品である。内容が地味なこともあり、彼のキャリアの中では余り目立たない作品であるが、中々しみじみとさせる佳作に仕上がっている。
それまでサイコサスペンス的な作品を輩出してきたイーストウッドだが、ここに来て一転、恋愛映画を作ってきたことにも驚かされる。しかも、監督3作目にしてここまで安定した演出力を見せたところに更なる成長も伺えた。
物語は、W・ホールデン演じるフランクが10代の奔放な少女と恋に落ちる‥というものである。年の差カップルを描いたメロドラマは取り立てて目新しくはないが、これを飽きなく見せたイーストウッドの語り口は見事だ。下手に作ってしまうとコメディ、あるいはご都合主義のドラマに写りかねないが、イーストウッドの端正な演出のおかげで余り白々しさを感じさせない。むしろ、何だか微笑ましく見れてしまい、二人のやり取りは終始面白く見ることが出来た。
まず、フランクとブリージーのコントラストを効かせたキャラクターが面白い。
冷徹な仕事人間フランクは、離婚という苦い経験から愛に対して失望している。序盤で彼は娼婦の電話番号が書かれたたメモを灰皿に捨てるが、この演技で彼が孤立したリアリストであることを一発で分からせている。見事な人物造形だ。
一方のブリージーはジーンズにギター、ボサボサの髪の毛。身なりは典型的なヒッピー少女である。世間知らずで幼稚なところがあるかと思えば、大人を翻弄する計算高さも持っていて、己の価値というものをきちんと理解しているしっかり者である。悪く言えば狡猾、よく言えば聡明。これがフランクとのやり取りの中で見えてくる。
尚、ブリージーを演じた女優は初見であるが、笑顔がどことなくヒラリー・スワンクに似ていると思った。彼女が主演しイーストウッドが監督したオスカー作品「ミリオンダラー・ベイビー」(2004米)も、ある意味では年の差カップルの恋愛ドラマと言うこともできる。その原型を本作の中に何となく見る事が出来た。
ラストにはしみじみとさせられた。要は外見ではなく中味‥ということなのだろう。この時のブリージーのセリフが良い。彼女の上昇志向な性格がよく出たセリフで清々しい気分にさせてくれる。
また、その手前のシーンも良かった。二人が過ごした時間の濃密さをこういう形で表現されると感極まってしまう。これもイーストウッドの演出の上手さだろう。
犬やギターといったアイテムの使い方も、物語の中で上手く機能している。特に、犬の名前が洒落ている。「大いに愛してください」とは、ブリージーの気持ちの代弁であろう。彼女の愛らしさがよく表れていると思った。