フィンチャー作品では「ゲーム」と並ぶような映画で面白い。
「ファイト・クラブ」(1999米)
ジャンルサスペンス・ジャンルアクション
(あらすじ) 自動車会社でリコールの査定をしているジャックは、不眠症に悩まされていた。それがひょんな事から参加した睾丸癌患者のセラピーのおかげで眠れるようになった。以来、ジャックは様々な集会に通って安眠できるようになった。ところが、行く先々でマーラという女性に出会い、彼の心は乱され再び眠れぬ夜が続くことになる。そんなある日、ジャックは出張先でタイラーというセールスマンに出会った。外見も性格も自分とは全く正反対の彼に、ジャックは何故か惹きつけられた。その後、出張から帰宅すると運悪く彼の部屋は火事になっていた。仕方なくジャックはタイラーの家に転がり込むことになる。
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(レビュー) 真面目な仕事一筋人間が、謎の男に出会う事で内なる暴力性に火を灯していくバイオレンス映画。
監督は鬼才D・フィンチャー。MTV的な映像作家の先駆けとも言える世代の一人であるが、クールでコマーシャリズムな映像には、やはり一歩抜きん出たこの人ならではの感性が見られる。
例えば、ジャックの部屋の家具をテロップで紹介したり、一瞬だけドラマと全く関係ない映像を入れる事でサブリミナル効果を狙ったり、画面をわざとぶらす事で幻惑効果を狙ったり、各所で実験的な映像が施されている。まるでこの世はウソで塗り固められた虚構に過ぎない事を、見る側に啓蒙するかのようだ。尚、ラスト近くにはペニスのカットが一瞬だけ入るのだが、ブルーレイ版では無修正ということである(今回はDVD版だったため未確認)。この一瞬の悪戯にも、現実が非現実に侵食されるという、映像派作家ならではの遊び心が感じられる。
ただし、無論こうした凝った映像はドラマからリアリティーを取り除くことになりかねない。結果的に、本作=<ファンタジー>であることを強く印象付けてしまうことになってしまった。
そのライフスタイルからして、いかにも無機質、滅菌的な生き方をしているジャックだが、彼は自分とは正反対のタフでワイルドなタイラーに惹かれていく。これは肉食系男子に憧れるマッチョ願望として、ある程度の説得力を持っているが、一方でリアリティーを排した各所の映像演出。そして、この物語全体がジャック自身のモノローグで綴られていることを考えれば、ある種のファンタジーに、もっと言えば何でもありな“俺様主人公的なアドベチャー・ゲーム”、リアルな社会とは程遠い自家中毒的な妄想の産物のように見せてしまっている。
したがって、劇中でタイラーがいくら消費社会を批判したとしても、また感覚麻痺に陥った現代人が肉体を破壊することで初めて“生”を実感できるという地下組織ファイト・クラブのコンセプトにしても、さも現代社会を皮肉っているように見せているが、実のところそれほど重みは感じられない。メッセージが弱いのだ。問題を提示する方法としては、フィンチャーの演出は間違っていると言わざるをえないだろう。
もっとも、こうしたメッセージ性をそこまで噛み締めたくないライト・ユーザーにとっては、ポップで軽快な語り口に終始楽しめることと思う。
ただ、一点だけ苦言を呈するなら、ファイト・クラブが組織的に大きく様変わりしていく中盤の描写はもう少し丁寧に描いて欲しかった。なぜなら、ここはジャックが初めてタイラーに不信感を抱くドラマの転換点でありキーとなる部分だからである。ここをちゃんと見せておかないと、以後の展開に説得力が出てこなくなってしまう。
それ以外は、実に計算の行き届いた演出が施されていて感心させられる。ラストに結びつくヒントが各所に配されており、改めて本作を見返してみると実に周到に作られていることが分かる。ミステリー映画としてはかなり完成度が高いのではないだろうか。
先日見た
「ソーシャル・ネットワーク」(2010米)でもそうだったが、見返すたびに新しい発見に魅了されるというのは、それだけ緻密に計算されていることの証しだ。観客の視的快感を誘導する映像演出家と言えるフィンチャーだが、実はかなりの理論派なのではないか‥。そんなことを本作と「ソーシャル・ネットワーク」から確認出来る。
キャストではタイラーを演じたB・ピットの妙演が光る。いわゆる不良なイケメンという、彼の俳優としてのチャームを弁えた上での役作りであり、生き生きと演じているところが良い。ヒロインを演じたH・ボナム=カーターは登場シーンこそ鮮烈に写ったが、以降は同じ演技が続きやや物足りなく感じた。むさくるしい男だらけの世界に咲く“紅一点”として、もう少しメリハリを利かせてヒロインとしての存在感を出して欲しかった。