笑いとペーソスで綴る娯楽時代劇!
「斬る」(1968日)
ジャンルアクション
(あらすじ) 天保4年、荒れ果てた小村に二人の浪人が腹をすかせてやって来た。一人はヤクザの源太、もう一人は農民出の半次郎。そこに小此木藩の青年武士・笈川がやって来る。彼は仲間の青年武士たちと暴君の城代を暗殺し、正義を成し遂げたと慢心していた。しかし、全ては藩を我が物にしようとする次席家老・鮎沢の策略だった。鮎沢は青年武士たちの行為を私闘とし、討伐隊を差し向ける。その場に居合わせていた源太と半次郎も、この争いに巻き込まれてしまう。
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この映画には「斬る」というセリフが度々登場してくるが、実際には中々「斬る」ことはない。しかし、最後には「斬る」となる。こういうトンチの効いた作り方は大変面白い。この言葉遊びからも分かるとおり、本作はハードな時代活劇であるが、根底には喜劇色が流れている。
監督・脚本は名匠・岡本喜八。彼らしい明快で痛快な作風は、冒頭のシーンからすでに主張されている。この場面では一羽の鶏を巡って源太、半次郎、笈川が出会うのだが、夫々のキャラを手際よく紹介しながら実にユーモラスに味付されている。ドラマの“引き”としては申し分なく、このあたりの巧みな演出には唸らされる。そして、笈川が持っていた握り飯で鶏の一件を水に流してしまう3人の単純さ、あっけらかんさ。夫々のキャラに対する愛着が自然と湧いてしまう。
本作のキャラは悪役を除けば、基本的には大らかな人物が多い。本来どっしりと構えて貫禄を見せるべき立場にあるご家老でさえ、女郎屋から一生出たくない‥などと駄々をこねる始末で、いたって能天気である。これだけ“ウカツ”な連中が騒動を繰り広げるわけであるから、ハードなドラマもどこかユーモラスなものに見れてしまう。
岡本喜八らしいハイ・テンションなアクションもクライマックスに用意されていて、そこも見応えが感じられた。他にも随所に笑える“事件”が用意されていて、これらもかなりテンションが高い。日常のちょっとした騒動といった類のものが多く、特に半次郎が柱を引き抜こうとするシーンは馬鹿馬鹿しくて笑えた。こうしたナンセンスなギャグは、見る人の感性に拠るところが大きいと思うが、個人的には爆笑物である。また、ナンセンスという事で言えば、"土の匂いがする女″というアイディアを持ってきたところにも妙味を感じた。
このように基本的に能天気キャラが揃うのだが、中には異質なシリアス・キャラも登場してくる。それはただ一人ニヒルを貫き通す、岸田森扮する組長である。彼は愛する女房を救うために争いの先陣に立っていくのだが、他と一線を引いたダンディーなキャラである。また、源太を見逃すウカツな一面もあるのだが、このウカツさでさえ他の連中と異なり哀愁に満ち溢れている。そもそも彼は道義を重んじる男である。それがこの"ウカツさ″に繋がっているのだ。今作では異彩を放つキャラクターで印象に残った。
物語で少し惜しいと思ったのは、中盤の砦の山のシーンだろうか‥。いわゆる篭城モノならではの緊迫感、危機感といったサスペンスが余り実感として湧いてこなかった。その理由は、砦の中のキャラが整理できていないからである。窮地から脱する方法を巡って内部分裂が起こっても今ひとつ盛り上がりきらなかった。