スタートからゴールまで突っ走ったD・ボイル演出に唸らされる。
「127時間」(2010米英)
ジャンルサスペンス・ジャンルアクション
(あらすじ) アーロンは週末に趣味のロッククライミングに出かける。途中で二人組の女の子と仲良くなり気分を良くした。‥と、その時アクシデントに見舞われる。岩に腕を挟まれて身動きが取れなくなってしまったのだ。ここに来る事は誰にも教えていない。携帯電話もなく水と食料は残り僅か。こうしてアーロンのサバイバルが始まる。
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(レビュー) 荒野に取り残された男の奇跡の生還を描いたサバイバル・ドラマ。実話の映画化。
物語は非常にシンプルで、ドラマ性を求めてしまうと物足りなく感じるかもしれない。ただ、原作がアーロン本人によるドキュメンタリー小説なので、ここで描かれている事は真実なのだろう。何が起こり、どういう心境にあったのか。それが正直に描かれていると思った。また、いくらドラマ性が少ないとはいえ、ほぼ全編に渡って流れるアーロンのモノローグ、彼の回想から必要最小限のバックストーリーは読み取れる。それによって一定のリアリティを持ってこの過酷なサバイバル劇を見る事が出来た。
監督はD・ボイル。スタイリッシュな映像はもはやこの人のお家芸といった感じがするが、今回もその特徴が随所に炸裂している。アバンタイトルのアーロンの出発シーンからして実に軽快だ。以後は荒野のクレバスに閉じ込められたアーロンの一人芝居が続く。場面の変化がないので普通に考えたら退屈しそうだが、そこをアーロンが見る幻覚、ビデオカメラの映像といった画面上のメリハリを効かせながら飽きなく見せていく。D・ボイルの演出力には脱帽してしまう。
また、上映時間は約90分と、今時の映画にあっては大変タイトである。息詰まるような緊張感、希望を閉ざされていく絶望感、食料や水を使って表現される切迫感。こうしたアーロンの心情は、短い尺の割りに実に濃密に表現されている。決して物足りないという感じは受けなかった。
こうしたワンシチュエーション・ドラマで思い出されるのが、リンドバーグの史上初の大西洋横断無着陸飛行を描いたB・ワイルダーの「翼よ!あれが巴里の灯だ」(1957米)である。あれもリンドバーグの心境が実に濃密に表現されていた。もしかしたら、こうした限定的な空間設定は場面転換が無い分、主人公の内面にドラマを集中させやすいのかもしれない。
撮影、編集、音楽も見事である。ほとんどがD・ボイルの前作
「スラムドッグ$ミリオネア」(2008英米)からのスタッフで、夫々が正にプロフェッショナルと呼ぶに相応しい芸当を見せてくれている。
また、アーロンを演じたJ・フランコの熱演も素晴らしかった。初めは自信過剰でいけ好かない奴として登場してくるのだが、迫りくる死に抗う後半の必死の形相は正に“生”への凄まじい執念、そのものである。このギャップがドラマチックさを生んでいる。
ところで、アーロンの腕をロックしてしまう岩石だが、これは穿ってみれば神が下した天罰という見方が出来なくもない。彼がこれまで多くの人を傷つけなから生きてきたことは、彼の回想からよく分かる。そもそも彼の薄情さがこうした絶望的な状況を招いたとも取れるわけで、他人を思いやる気持ち、それを決して忘れてはならないという教訓が、このドラマには込められているような気がした。