ギャグに走り過ぎてついていけなかった。
「ウェディング・ベルを鳴らせ!」(2007セルビア仏)
ジャンルロマンス・ジャンルコメディ
(あらすじ) セルビアの片田舎。祖父と暮らすツァーネは好奇心旺盛な少年。まだまだ恋も知らないツァーネだったが、祖父は過疎化したこの村に彼の未来はないと憂いていた。そこで町に出て花嫁を見つけてくるようツァーネに言う。彼は1頭の牛を引き連れて町へ出た。そこでヤヌスという美少女に出会い一目惚れする。どうにか彼女に告白しようと悪戦苦闘する最中、大事な牛をマフィアに盗まれてしまった。こうしてツァーネは犯罪に巻き込まれてしまう。
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(レビュー) 田舎から出てきた純情少年の初恋をブラック且つシュールに描いたドタバタ・コメディ。
軽快な音楽とハイテンションなキャラクターが織り成すカオスは好き嫌いが分かれそうである。個人的には最初は面白く見れたのだが、途中から疲れてしまい余り楽しめなくなってしまった。落ち着かない調子がずっと続く上、一つ一つのギャグが大仰でしつこく感じてしまう。例えば、落とし穴を使ったギャグはワンパターンで、大団円になる頃には、もうそれはいいから‥という感じになってしまった。
監督・脚本はE・クストリッツァ。エキセントリックな作風はこの監督の持ち味で、その資質からすればこのドタバタ・コメディもさもありなん‥といった風に見れる。
ファンタジーとリアリティーを共存させた演出も大きな特徴で、例えばカーニバルの人間大砲はストーリーと関係なく時々空を横切りながら一連の騒動を眺めている。祖父は彼を天使と言うが、司祭は悪魔と言う。果たして何を象徴しているのか?映画が終わっても判然としないが、極めてナンセンスなキャラで面白い。こうした独特の感性で描かれたキャラ、ギャグが随所に散りばめられており、この監督の非凡なセンスには唸らされる。
ブラックなセンスもこの監督の特徴だろう。本作には牛の睾丸を去勢するシーンやマフィアの悪行の数々など、過激なギャグが出てくる。しかし、クストリッツァはこれらを尽く突き放して描くことで、上手く残酷さを薄めている。笑ってはいけないと思いながら、ついつい笑ってしまった。
物語はボーイ・ミーツガール物の常道で、特に捻ったところは無い。かなりシンプルにまとめられている所も含め、極めてチャーミングなドラマだと思った。ただ、彼の過去作「黒猫・白猫」(1998仏独ユーゴスラビア)にかなり似ており、新味という点ではどうしても薄れる。
尚、彼のこれまでの作品には多かれ少なかれ政治的なマテリアルが必携となっていたが、今回はそれほど画面上に露出する事は無い。9.11テロの攻撃の対象となった世界貿易センタービルや、アメリカ社会の裏を描いた映画「タクシードライバー」(1976米)に捧げたオマージュ。このあたりに大国アメリカに対する愛憎の念か伺える。ただ、これらが過激なアンチシズムに繋がるような事は無く、サラリと流す程度に抑えられており、今回はクストリッツアのシリアスな側面は完全に封印されている気がした。
おそらく監督自身も、今回は最初から肩の力を抜いて作ろうとしたのだろう。これまでの作品のような歯ごたえは感じられなかったが、何も考えずに楽しむ分には、これくらいが丁度いいのかもしれない。