ロバート・ダウニー・Jr.のなりきり演技は必見!
「チャーリー」(1992米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 19世紀末のイギリス。幼少のチャールズ・チャップリンは、母と兄と貧しい暮らしを送っていた。舞台歌手をしていた母の影響で彼は劇場に通い詰め、そこで人々に夢と希望を与える“笑い”を幼いながらに体得していく。少年に成長したチャップリンは、ロンドンの興行主カルソーに見初められて舞台デビューを果たす。大きな喝采を浴びて人気喜劇役者になった彼は、渡米後“映画”と出会う。
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(レビュー) 喜劇王チャールズ・チャップリンの伝記映画。
チャップリンを演じたR・ダウニー・Jr.のなりきり演技が実に見応えがあった。映画のタイトルは忘れたのだが(おそらく彼がデビューして間もない頃の短編のうちの1本だろう)、その時の1シーンにそっくりの場面が登場してくる。これを見ると分かるが、R・ダウニー・Jrは.かなりチャップリンの演技のクセを研究している。偉大な映画人チャップリンに似せようとするのは、どれだけプレッシャーがかかることか‥。俳優なら誰もがこの役を演じることに躊躇してしまうだろう。それを彼は見事にやってのけており、この勇気、気概は称賛に値する。
惜しむらくは、晩年の演技だろうか‥。老けメイクでかなり本人に近づけているのだが、チャップリンの回顧録を編集するインタビュアーとの対話に終始するので、どうしても淡々とした会話劇になってしまっている。伝記映画としては、晩年の彼の素顔にももう少し迫ってほしかった。それ以外は、ほぼ文句なしのなりきり演技で見事であった。
また、その回顧録の中で語られる逸話も、製作にまつわるものから私生活に関するものまで、面白いもの、知らなかったものがたくさん出てきて楽しめた。加えて、この映画はポイントを絞った回想構成を取っており、「キッド」(1921米)、「街の灯」(1931米)、「モダン・タイムス」(1936米)、「チャップリンの独裁者」(1940米)といった数々の傑作と関連付けながら、彼の人生観、恋愛観、友情を見せてくれている。このあたりの作劇は、彼の人となりを表す上では中々巧みな構成だと思った。
中でも印象に残ったのは、「HOLLYWOODLAND」の看板の下でチャップリンが盟友ダグラス・フェアバンクスとこれからの映画界について語るシーンだった。ここで二人は、トーキーの到来を少しだけセンチメンタルに受け止める。チャップリンの放浪者というキャラクターは、無声映画の中で作り上げられたキャラクターであるが、その魅力は語らないことで生まれる絶妙なとぼけた笑いにあると思う。それがトーキーになるとどうなるか?それまでのキャラクターが死んでしまうのではないか?二人は時代の流れを敏感に感じ取りながら、そんな恐れを抱き始めるのだ。事実、チャップリンは晩年は放浪者役を捨てて別のキャラクターを演じることになった。やはり時代には抗えなかったのであろう。そのことを併せ考えてみても、このシーンの二人の憂い、不安には哀愁を覚えてしまう。また、後に赤狩りの餌食になったことを考えれば、ハリウッドのシンボルとも言えるこの場所は一層皮肉的な舞台に思えてくる。
キャストも豪華俳優陣が揃っていて見ごたえがあった。チャールズ・チャップリンの娘ジェラルディン・チャップリンが母親役で出演しているほか、D・エイクロイド、K・クラインといったコメディ俳優、ダイアン・レイン、M・ジョオヴォビッチ、M・トメイといった個性的な女優陣がチャップリンの恋人役として登場してくる。
監督はR・アテンボロー。俳優から監督まで器用にこなす才人で、彼の監督作は割りとオスカー狙いで作られているようなところがある。今回も偉大な先人の足跡を描いた、ある意味で映画人としての野心に満ち溢れた作品と評する事が出よう。ただ、結末の舞台をオスカーの表彰式に据えたことは、狙いすぎ‥という感じを受けなくもない。カタルシスを演出する上で彼の功績を賞賛するのは理解できるのだが、そのまま幕引きとは、アカデミー協会の〝受け狙い″にも写ってしまう。
スイスで過ごした彼の余生は実に孤独なものだったことが、この映画を見るとよく分かる。彼は自分を追い出したアメリカ、ハリウッドをどう思っていたのか?体制に抗い続けたアウトローを演じてきた彼なら、きっと思うところがあったに違いない。映画を締めくくるなら、そこを最後に持ってきた方が良かったのではないだろうか。