見応えある戦争大作。
「人間の條件 第1部純愛篇/第2部激怒篇」(1959日)
ジャンル戦争・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1943年、鉄鋼会社に勤める梶は同僚美千子と恋仲にあった。満州に出征する親友、影山の勧めで二人は結婚する。その後景山は戦場へ、梶は召集免除と引き換えに満州の鉱山へ赴任し労務管理することになる。そこでは中国人労働者に対する蛮行が横行していた。梶はこの環境を改善しようと尽力する。暫くして、軍から捕虜を特殊工人として引き渡される。脱走を試みる工人達が後を絶たず、梶の心労は極まっていく。
goo映画映画生活ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 名匠小林正樹監督が全6部9時間半をかけて描いた戦争大作。公開時は2部構成3回に分けて上映された。戦争の無益さ、人間の醜さを豪快に筆致した労作で、実に見ごたえのある作品に仕上がっている。
この第1部、第2部では主人公、梶が満州の採鉱場で労務管理に勤しむ所までを描いている。彼は虐げられる中国人工人の姿を目の当たりにして労働環境の改善に努めていくようになる。しかし、強権を振るう現場監督や軍部の妨害にあい、中々思うようにいかない。また、捕虜を特殊工人として受け入れることになり、脱走しようとする彼らとの間で日々折衝に勤しむこととなる。こうして日本人と中国人との板ばさみにあいながら彼の苦悩は続いていく。
中国人に対する非道な扱いが延々と続くため見ていて決して気持ちが良いわけではないが、戦争の理不尽さをまざまざと見せ付けた所に作り手側の気概を感じた。ヒューマニズムを体現する梶の戦いにも説得力が備わっており、おそらく作り手側もこの描写をおろそかにしてはいけない‥そう考えたのだろう。
物語は梶の視点を中心に描かれているが、一方で虐げられる中国人労働者達の視点でも描かれている。工人と売春婦の悲恋、梶から親切にされる中国人青年の葛藤、このあたりは中々ドラマチックに描けていえ見応えがあった。いくら梶が心を砕いても、工人達からしてみれば梶も所詮は日本人である。彼の誠意は中々伝わらない。戦火に芽生える友情を美談として描く作品がある一方で、こうした形で非情な現実を突き付ける作品は大変貴重だと思う。作り手側の真摯さも感じられた。
キャストでは梶を演じた仲代達也の熱演が印象に残った。また、特殊工人のリーダーを演じた宮口精二、梶の片腕として労務管理に当たる山村総も中々の好演を見せている。
特に、山村総演じる沖島は役柄的にかなり複雑で面白い立ち位置になっている。梶のヒューマニストを中和するかのように存在しており、ある種ドラマを客観視させる立場を持たされたキャラで、その葛藤にも注目したい。脱走者が続出すると沖島は工人の管理を強め、梶のやり方とは微妙に異なる姿勢を見せていく。どちらかと言うと、やりたくない仕事だが仕方なくやっている‥というスタンスを取っており、梶には無い人間臭さが見れて良かった。また、収監された梶に妻の美千子を引き合わせる友情には優しさも感じられる。これにはしみじみとさせられた。
作りは全体的に重厚で、モブシーンも中々の迫力が感じられた。長丁場のため途中で息切れするかと思いきや、演出の手抜き感が全く見られず最後までクオリティが落ちなかったところは凄い。
ただ、終盤若干性急に映る部分があったのは惜しまれた。また、不自然な展開も見られる。例えば、釈放された梶が工場に出向いてその足で一旦町へ行き、その後に美千子へ会いに行っている。順番としては美千子に真っ先に会いに行く‥とした方が自然ではないかという気がした。