暴力の虚しさをイノセンスに表した作品。
「未来を生きる君たちへ」(2010デンマークスウェーデン)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)アフリカの難民キャンプでボランティア活動をしている医師アントンは、妻と別居状態で二人の息子達と離れて暮らしていた。彼も妻も長男エリアスが学校で虐められていたことを知らずにいた。ある日、いつものように虐めを受けていたエリアスは転校生クリスチャンに助けられる。これがきっかけで二人は親友になった。アントンは帰国し、そんな二人を連れて遊びに出かけた。そこでアントンはある男から理不尽な暴力を受ける。無抵抗を貫く彼をクリスチャンは非難する。
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(レビュー) 暴力にどう対処すれば良いのか?やられたらやり返せば良いと言うクリスチャン。それでは益々憎しみを増やすだけで何の解決にもならないと言うアントン。本作は二人の考え方の違いを通して、復讐の虚しさをシリアスに描いた人間ドラマである。
物語はエリアスの虐めの問題を軸に据えながら、父アントンが直面する問題、父子関係の問題等を絡めながら展開されていく。それぞれに微妙に関連しており、映画はそこを上手く交錯させながらテーマのあぶり出しを行っている。複数のドラマを同時並行に描くと大概散漫になるが、本作にはそういった印象を受けなかった。すべてのエピソードがテーマに明確に直結されているからだろう。よく練られた脚本だと思う。
ただ、いくつかこうして欲しいという演出面の不満‥というか希望はあった。例えば、ラストのクリスチャンと父親の抱擁。あれは両者が歩み寄る形にしたほうがより自然だったのではないだろうか。ほかにも細かな点でいくつか気になる部分があった。
尚、個人的に最も印象に残ったエピソードは、アントンの難民キャンプのエピソードだった。彼はボランティアでアフリカの避難民の治療を行っているが、そこに腹を切り裂かれた妊婦が運ばれてくる。それはビッグマンという男が率いる暴力集団の仕業で、この蛮行に現地の人々は一様に恐怖していた。当然アントンも憤るのだが、彼は医師である。治療をすることでしか悪に抗し得ない。やがて彼は直接ビッグマンと対峙することになるのだが、そこでの行動は見ものだった。彼の下した行動は果たしてどこまで許されるべきものなのだろう?考えさせられる。これこそ暴力にどう対処すればいいか‥という問題を深く問うているような気がした。
キャストもそれぞれに好演している。特に、エリアスの母親役の熱演が素晴らしかった。虐められるエリアスを想う母としての苦悩。夫アントンとのすれ違いで見せる妻としての苦悩。深みのある演技を見せてくれている。
また、クリスチャンを演じた少年の凛とした佇まいと、どこか達観したような眼差しも印象に残った。彼は一貫して暴力には暴力で対処していくべきと論じている。そして、その考え方は益々過激な方に加速していく。何故彼がここまで荒んだ少年になってしまったのか?そこには父との関係にまつわる重要なバックストーリーが隠されている。神秘性を孕みながらキャラクターに奥行きをもたらしたところに、俳優としての将来性が感じられた。