ストーリーに難があるが、テーマとヤリスギな描写がイイ(笑)
「スーパー!」(2010米)
ジャンルコメディ・ジャンルアクション
(あらすじ) バーガー店に勤める冴えない男フランクは、これまでの人生で自慢できることは美人の妻と結婚したことと、強盗犯の逮捕に協力したことだけだった。ある日、愛する妻がマフィアのジョックの元に去って行ってしまった。彼女を取り返そうと立ち向かうが惨めに返り討ちにされる。落ち込んでいるとテレビにはヒーロー番組が流れていた。それに触発されたフランクは神の啓示を受けてスーパーヒーローになって町のダニ退治を始める。
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(レビュー) 愛する妻を取り戻そうと手製のスーツを着てスーパーヒーローになる中年男の悲哀を、ブラックな笑いで綴った作品。
フランクは現実と妄想をごっちゃにした〝なんちゃって”ヒーローである。その点で言えば、先頃見た
「キック・アス」(2010米)の主人公と被っている。しかし、彼の成敗は暴力が過剰過ぎて単に正義を振りかざすキ○ガイのようにも見えてくる。単純に笑って見れる〝健全”な「キック・アス」とはかなり異なる〝なんちゃってヒーロー”に思えた。
たとえば、フランクは映画の列に割り込んだ男の頭をかち割って病院送りにする。人殺しをしたというのなら分かるが、単に列に割り込んだだけでそこまでするのは酷すぎる。
また、フランクは思い込みが激し過ぎて周囲が見えなくなってしまう癖がある。それで一番笑ったのは、買春オヤヂを成敗するシーンだった。助けられた少年は瀕死の買春オヤジの財布から金を抜き取るのだが、フランクは全くそれに気付かず成敗の悦に入り去って行く。オヤヂをぶん殴ったなら少年もぶん殴れよ‥と心の中で突っ込みを入れてしまった。
更に、彼が狙うのは集団ではなく必ず単独犯である。強きを挫くというヒーローの性質も持っていない。そういう意味では、彼は臆病なヒーローでもある。
こう考えると、果たしてフランクの正義は本当に世の中のためになっているのか?という疑問が湧く。現に、劇中の彼は〝おかしなマスクを被った暴漢”と間違われてマスコミから叩かれる。このあたりは、チンピラ集団相手に敢然と立ち向かいボロボロになりながらも正義を貫いた「キック・アス」のヒーローとは真逆のヒーローと言える。
物語の方は、途中から相棒としてコミックショップの店員リビーが加わる。これも「キック・アス」で言えばヒット・ガール的な存在なのだが、彼女のイカれっぷりはそれ所じゃないくらいぶっ飛んでいる。虫の息の悪人に対して更に追い打ちかけようとして、それ以上やったら死んでしまうとフランクに止められるくらいの〝勇ましさ(?)”である。彼女もまた自らの正義を盲信する利己主義なヒーローと言っていい。
こんな感じで彼らの悪人退治が少々居たたまれない残酷なギャグで綴られていくのだが、後半に入ってくると意外にもヘビーな展開が待ち受けていて良い意味でこちらの期待を裏切ってくれる。ちょっと恐ろしくなるくらいの人生哲学を鋭く示唆してくるのだ。
テーマは幸福観と解釈した。冒頭でフランクはたった二つしか幸せだった瞬間がないと言っている。実は、これがラストの伏線になっていて本作のテーマにも繋がっている。
ラストで彼の幸福の価値観は変化する。これは大きな不幸を知ったことから生まれた変化なのかもしれない。病気をした人が健康のありがたみを知るというのと一緒である。極論すれば、本人が幸福だと思えば幸福であるし、不幸だと思えば不幸になる。本当の幸福など誰にも分からないのである。中国の故事に「人間万事塞翁が馬」というのがあるが、あれに近いものを感じた。
コミック的でチープで、ストーリーも突っ込みどころ満載のバカ映画だが、幸福とは?人生とは?という鋭いメッセージを込めたラストは中々辛辣で「キック・アス」よりも歯ごたえが感じられた。