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カナリア

谷村美月の映画デビュー作。その初々しさに惹かれる。
カナリア [DVD]カナリア [DVD]
(2005/10/28)
石田法嗣、谷村美月 他

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「カナリア」(2004日)星3
ジャンル青春ドラマ・ジャンル社会派
(あらすじ)
 多数の死傷者を出したテロ事件から数年後。事件を起こしたカルト教団ニルヴァーナは解体され、信者だった少年光一は児童相談所に預けられた。教団の幹部をしていた彼の母親は逃亡し行方をくらました。一方、一緒に入信した彼の妹は祖父に引き取られた。光一は妹を取り返すために施設を脱け出して祖父の住む東京へ向かう。その途中で光一は援交少女由希と出会う。彼女にも荒んだ家庭環境があった。そこから逃れるようにして二人は一緒に旅をすることになる。
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(レビュー)
 オウム真理教の地下鉄サリン事件をモチーフにした人間ドラマ。

 地下鉄サリン事件が起きたのは、本作が公開された約10年前のことになる。事件を起したオウム教団は解体されたが、その後を受け継いだ団体が別の名前で今でも活動を続けている。当時の被害者の中には、この事件が大きなトラウマとして未だに記憶から拭い去る事が出来ない人も多いだろう。決してタイムリーなネタとは言えないが、映画はカルト教団の内部の恐怖を赤裸々に描いて見せている。それは過去の事件を忘れてはいけない‥という製作サイドのメッセージなのだと思う。

 物語は教団のマインドコントロールに抵抗した少年の戦いを描く‥という割とストレートなものになっている。途中から援交少女由希が絡んでくることで、彼の戦い、つまり妹を取り戻すという旅は複雑に展開されていくようになる。

 由希は父親のDVに苦しむ今時の少女である。光一の妹探しの手伝いをしながらこの旅に日常からの解放、安息を求めていくようになる。やがて互いに恋愛めいた感情も芽生えていくのだが、片やカルト教団の元信者、片や援交少女である。それぞれに荒んだバックボーンを抱える者同士、そう容易く甘ったるいロマンスに突入するはずがない。映画は絶妙のさじ加減で二人の距離感を描いており、この年頃の少年少女の純な心理を上手く掬い上げていると思った。

 尚、この微妙な距離感が一気に縮まる事件が中盤で起こる。由希が旅費を稼ぐために援交オヤジの車に乗るのだが、それを光一が走って追いかけるというシーンである。いかにも青臭くて見ていて恥ずかしくなってくるのだが、こういうベタなものには素直にグッときてしまう。

 映画は終盤に入ってくると、光一と祖父の対峙を通して、子供の大人への反発が語られる。「対大人」、「対社会」という構図は青春映画としては非常にオーソドックスなテーマと言えるが、そこを映画は光一や由希、子供たちの目線を通して真っ直ぐに描いている。青春映画らしい姿勢を最後まで崩さなかったところには好感が持てた。

 尚、ここでひとつ面白いと思ったことがある。それは光一と由希、夫々の大人に対する認識の仕方が若干違うことである。
 光一にとっての大人は祖父であり母親である。由希にとっての大人はDV父であり援交オヤヂだ。由希はドライブすればすぐにおこずかいをくれる相手‥という風に完全に舐めきった目線で大人たちを見ている。一方の光一は大人なんて信用できない‥という冷めた目線で見ている。この認識の違いは、彼らが辿ってきたこれまでの人生に深く関係しているだろうし、性格の違いからくるものなのかもしれない。ここではっきりと言えることは、不自由な環境で抑圧され続けてきた光一の方が、由希の大人を見る目よりもはるかに怨念が籠っているということだ。これが結構恐ろしかったりする。信者に抑圧的な教団は、つまるところ現代社会の延長線上にあるメタファーとも取れよう。我々が普通に暮らしている社会も、何となくギスギスした暮らしにくい社会になっていないだろうか。光一の尖った眼差しには、現代社会の子供たちの〝ささくれ立った”心理が投影されているようでギョッとするような怖さを覚えてしまう。

 ただ、クライマックスについては少々奇をてらいすぎたかな‥という印象を持った。光一の超然とした変身に寓意性が備わり過ぎて、むしろ彼自身がカリスマ性を持った尊師たる存在ではないか、忌むべき大人の世界、偽善ぶった宗教世界への回帰に他ならないのではないか‥という突っ込みを入れたくなってしまった。これを子供たちのユートピアと解釈するなら、それはかなり強引だ。ここまで抽象的且つ神話的に締めくくられると、正直ついていけなくなってしまう。

 シナリオにも幾つか不満が見つかる。まず、所々のセリフが舞台劇っぽくて生のセリフに聞こえてこなかったのが残念である。映像が割とナチュラル志向なのでセリフだけが浮いてしまう感じがした。
 また、旅の途中で出会うレズビアン・カップルのエピソードがドラマを寸断してしまっている。子供を産めない母親失格者をダメな大人の代表として登場させ、光一たちの「対大人」というテーマの炙り出しにかかったのであろうが、その後このエピソードはそれほど光一たちのドラマに関係してこない。これを挿話するくらいであれば、由希の家庭環境を描くエピソードの方が、ダメな大人を描くという意味ではむしろ適していたのではないだろうか。彼女のバックストーリーに厚みを持たすことで、クライマックスの彼女の毅然とした態度にも説得力が増すと思う。

 監督・脚本は塩田明彦。彼の作品は割と好きで見ているが、喜国雅彦の原作を映画化した「月光の囁き」(1999日)は中々スリリングな恋愛ドラマで面白かった。また、宮崎あおいが荒んだ少女を演じたビターな青春ドラマ「害虫」(2002日)も、ひたすら陰鬱としたドラマだったがこの年頃の病んだ心情を表現したという意味では興味深く見れた。他に、「黄泉がえり」(2002日)や「どろろ」(2007日)といったヒット作も手掛けている。このようにこの監督はインディーズとメジャーを器用に渡り歩く監督である。ただ、個人的にはこの人の作家性を活かせるのはインディーズの方が向いているのではないかという気がする。今作も正にインディーズ寄りな作品である。
 また、塩田監督の作品には青春というキーワードが重要なものとして度々関わってくる。今回も正にそれを地で行くような作品であり、思春期の少年少女の心情を描かせると中々上手い監督であることを再認識させられた。今後もこういった系統の作品をどんどん作って行ってほしい。

 キャストでは、由希を演じた谷村美月が魅力的だった。鑑賞は前後してしまったが、「十三人の刺客」(2010日)「魍魎の匣」(2007日)等、最近の異形なビジュアルを先に見ている者としては、デビュー作である本作の初々しさが新鮮に映った。
[ 2011/09/12 02:22 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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