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ヒトラーの贋札

ユダヤ人迫害の映画だが、俗物なユダヤ人と善良なユダヤ人。二つの人間を登場させたところに面白さを感じる。
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(2008/07/11)
カール・マルコヴィクス、アウグスト・ディール 他

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「ヒトラーの贋札」(2007独オーストリア)星3
ジャンルサスペンス・ジャンル戦争
(あらすじ)
 1930年代、べルリンで偽札作りをしていたユダヤ人サリーは、警察に目をつけられ逮捕される。強制収容所に送られた彼はそこで暫く肖像画の絵師になるが、5年後サクセンハウゼン強制収容所に移送された。そこで彼を待っていたのは、かつて自分を逮捕したヘルツォークだった。彼の下でサリーは偽ポンド紙幣作りに加担させられる。
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(レビュー)
 ナチスの偽札作り、いわゆる「ベルンハルト作戦」に加担させられた男の物語。

 本作もユダヤ人迫害の悲劇を描いた映画の1本と言えるだろう。ただ、主人公サリーは元々は偽札作りのプロで、言わば犯罪者という設定になっている。<ナチス>=<悪>との対比で<ユダヤ人>=<善>として描かれることの多いこの手の映画にあって、こういう造形をした主人公は珍しい。
 実際、彼はナチスの将校の顔色を伺いながら、他の囚人を蹴落としてでも生き延びようと悪あがきを始める。そして、ついにヒトラーの偽札作りの協力者にまで落ちぶれていく。そのおかげで彼は他の囚人達よりも優遇される立場になる。ナチスの肩を持つサリーは明らかに従来のユダヤ人迫害映画では見られなかったタイプの主人公である。そこに新味が感じられた。

 しかし、そんな彼でもやはり周囲の仲間が酷い仕打ちにあうのを目にすると、徐々に心が揺らいでしまう。多くの仲間が死んでいく中で自分だけが助かればそれでいいのか‥という疑問を持ち始める。映画は後半からこの葛藤をじっくりと描いていくようになる。

 サリーのこの葛藤を萌芽させるキーマンとして、中盤からブルガーという囚人が登場してくる。彼はサリーと違い徹底してナチスの支配に抵抗する勇気のある男である。実は、本作は実話を元にしており、その原作を書いたのがこのブルガーなる人物だそうである。それを知ってしまうと、何となくブルガーが正義の人に偏りすぎな感じもするが、果たしてそこは原作者としての恣意が働いているのかどうか‥?
 それはともかく、彼の抵抗運動がナチスに加担するサリーの葛藤をかき乱していく重要な役回りを持っていることは間違いなく、後半の二人の衝突は実に見応えがあった。

 尚、本作には幾つか細かなサブエピソードも挿話されている。擬似親子愛を描く元美大生コーリャのエピソードや、冷酷残忍なナチスの中にも様々な立場を取る者がいるということを表したヘルツォークのエピソード等がそうである。映画は約90分という短さなので、これらのサブエピソードが詰め込まれると少々窮屈な感じを受けてしまう。
 コンパクトにまとめることを前提とするなら全体的な構成はもう少し考えた方がいいのではないだろうか。サブエピソードは流す程度に抑え、メインとなるサリーとブルガーの立場の違い、対立をもっと深く重点的に描いた方が、見る方としてもスッキリとするし作品の力強さがもっと出たように思う。

 演出は手持ちカメラを多用したドキュメンタリー・タッチを取っている。映画を軽快に見せることに奏功しているが、逆に言うとこの演出のせいで本来持っているシリアスさを軽く見せてしまっているような箇所も目についた。このあたりは一長一短あるような気がした。
 どうもこの監督は割と表層的にしか場面を描かない癖があるようで、これは肝心の結末についても言える。ユダヤ人迫害の悲劇を負の遺産として小奇麗にまとめ過ぎてしまっているような印象を受けた。ヘビーな題材の割にいささかインパクトに欠け、これでは鑑賞感も淡泊になってしまう。

 歴史の舞台裏を照射した意欲的な作品であることは間違いないが、全体的に見て軽い演出やコンパクトな構成によって食い足りない作品になってしまった。
[ 2011/09/16 01:54 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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