この浮遊感に身を委ねてしまいたくなる。実相寺の映像感性がいかんなく発揮された怪作。
「あさき夢みし」(1974日)
ジャンルロマンス・ジャンルエロティック
(あらすじ) 13世紀後半、御所は帝位を弟に譲り、院で隠者生活を送っていた。そこには彼が最も寵愛する四条という娘がいた。彼女は幼少時にここに預けられてきたが、様々な男達によって愛欲の対象とされてきた女である。時には身篭った子供を秘密裏に処分させられることもあった。そんな彼女に御所の腹違いの弟、真言密教の高僧、阿闍梨が惹かれていく。二人は禁断の愛欲に溺れていくのだが‥。
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(レビュー) 次々と男達と体を重ね合わせる悲劇のヒロインを、スタイリッシュな映像で綴った宮廷ドラマ。
監督はラジカルな映像で見る者を独特の世界観に引き込むことで知られる実相寺昭雄。強烈な照明効果とシャープな構図、夢と現の境界を取っ払った摩訶不思議な語り口が、流石に実相寺と思わせてくれる。
しかし、ドラマの方は一本調子でやや物足りない。四条の肉体を次々と男達が通り過ぎていく‥という物語は、本来ドラマチックであって然るべきだが、ひたすら彼女の心理を淡々と述べるのみで単調である。彼女を抱え込む御所の心情や、愛欲と信仰の狭間で揺れ動く阿闍梨の葛藤、このあたりを複雑に絡める事で、この単調さは解消されたろうが、どうもそのあたりの事は実相寺と脚本家の眼中には無いらしい。したがって、落ちぶれていく四条の姿が、単なる〝独りよがりな悲劇”にしか見えてこず、そこに憐憫の情は余り湧いてこない。語りの視野の狭さが原因だろう。
しかし、そうは言っても、やはり本作の魅力は実相寺が作り出す映像世界にある。
虚無感を漂わせた四条の艶姿は、独特の浮遊感をもたらしており、見ているこちらまでまるで夢でも見ているような、そんな錯覚に襲われてしまう。実相寺自身もそこが一番描きたかった所なのだろう。タイトルの「あさき夢みし」からもその意志は伺える。
四条を演じたジャネット八田は演技云々と言う以前に、この役自体がもはや性具という扱いなので、極端な言い方をすれば下手な演技は不要。かえってマグロのように寝そべっていればそれだけで良い‥といった塩梅なので、演技についての評価はしようがない。
一方、阿闍梨を演じた岸田森の怨念のこもった熱演は目を引いた。本作は随所に濡れ場が登場してくる作品なので、演者の体を張った演技も重要になってくる。そういう意味でも、岸田の熱演は評価したい。