fc2ブログ










彼女と彼

主婦の反乱と善意の難しさ。
「彼女と彼」(1963日)星3
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
  ある夜、団地住まいの主婦直子は近所のバタヤ集落の火事で目が覚めた。翌朝、現場に行くと両親を亡くした盲目の少女を見つける。少女は集落に住む廃品回収をしている伊古奈という中年男に面倒を見て貰うことになった。その後、伊古奈は夫と大学時代の級友だったことが分かる。直子は何となく親近感がわき、次第に彼らと交友を育むようになった。そんなある日、部屋に伊古奈を上げた後に貴重品が紛失していることに気付いた。直子は彼が盗んだのではないかと疑うのだが‥。
goo映画
映画生活

ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!

FC2ブログランキング
にほんブログ村 映画ブログへ人気ブログランキングへ


(レビュー)
 中流家庭の主婦と貧しい男の交流を、周囲の人間の残酷さ、怖さを交えながら描いたシリアスな人間ドラマ。

 直子は傍から見れば何不自由ない暮らしを送っている幸福な主婦に見える。しかし、表には見せないだけで、彼女は本当は様々な苦悩を抱えている。戦後間もないころに満州から引き上げられた過去、子供が中々出来ないという負い目。こうした苦しみを抱えながら生きているのだ。そして、その苦しみは伊古奈と盲目の少女との交流によって少しずづ癒されていく。
 しかし、これが周囲に様々な波紋を呼ぶことになる。

 夫は伊古奈とは旧知の仲であったが、自分の留守中に行き来する二人の関係を決して快く思わない。また、小奇麗な中流家庭の主婦とみすぼらしいバタヤ集落の中年男の交流に、周囲も不審の目を注ぐようになる。直子はこれら周囲の目を背に、伊古奈と少女にお茶やお菓子を振舞ったり、夫に仕事を紹介させたりして善意の限りを尽くしていく。

 確かに彼女の慈愛に溢れた行動は実にあっぱれと言える。ただ、彼女の善意はこうも考えられる。平凡で退屈な主婦でいたくない、他人にとって何か特別な存在でありたい、こうした願いから善意を施しているのではないか‥という考え方である。悪く言えば自分という存在を証明したいがために彼らを利用した‥と取れなくもない。現に本作にはそれを匂わすようなエピソードが幾つか見られる。

 例えば、直子は夫の口添えで伊古奈に職を世話しようとする。しかし、それは断られてしまう。伊古奈にしてみればかつての級友から仕事を貰うなど男としてのプライドが許さなかったのであろう。彼女は好意でしているつもりでも、彼にとっては施しでしかなく、自分を惨めにさせるだけの残酷な仕打ちでしかなかったのだ。相手の気持ちを考えない独りよがりな善意ほど恐ろしいものもはない。それは単に自己満足でしかないという典型的な例だ。

 こう考えると、彼女の一連の行動は安易に尊い慈善行為、おおらかな母性としては割り切れなくなってくる。直子の善意の解釈を探っていくと色々と考えさせられる。

 キャストでは直子を演じた左幸子の演技が素晴らしかった。堅実な演技もさることながら、今回は髪型を自在に変えながら当時の流行を敏感に取り入れている。夫を健気に支える”妻”としての顔、伊古奈との交流に見せる”女”として顔。二つの表情を絡ませながら複雑な女心を見事に体現している。

  監督、脚本は羽仁進。「初恋・地獄篇」(1968日)に比べたら随分とオーソドックスな演出であるが、所々にアングラ・テイストが見られる。例えば、夜の団地を捉えたクライマックス・シーンなどは、そこで起こる出来事が悲劇的であることを差し引いても、実に絶望的で恐ろしく感じられた。
 ドラマの舞台は整然と立ち並ぶ巨大団地に限定されている。これも無機的で冷ややかで全体の不気味なトーンを静かに演出している。
[ 2011/10/14 19:09 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(2)

私はこの映画を見て、どうしても左幸子の気持ちに同化することはできませんでした。むしろ吐き気がするくらいこの主婦を演じた左幸子が嫌です。(左幸子が嫌いなのではなくこの主婦が嫌)私は岡田英次の気持ちに同化してしまい、こんな事を平気で行う女房であれば多分その瞬間に愛情の欠片もなくなってしまうだろうな・・と思いました。
[ 2012/10/08 01:53 ] [ 編集 ]

タイトルの「彼女と彼」は「直子と伊古奈」のことを指していると思います。これは家庭に収まる主婦が一人の女として生きることを決心するドラマですから、仰る通り直子は主婦としては失格でしょうね。ゆえに、岡田英次の身になってみれば実に不憫なドラマでもあります。
[ 2012/10/09 02:11 ] [ 編集 ]

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://arino2.blog31.fc2.com/tb.php/838-7703a4e3