大胆なタイトルであるが、空疎な現代人の心を表した面白い恋愛ドラマである。
「人のセックスを笑うな」(2007日)
ジャンルロマンス
(あらすじ) ある朝、美大生の“みるめ”は途方に暮れていた酔っ払いの女を車に乗せる。失恋のショックでヤケ酒を飲んだと言う女。その後、みるめは学校で彼女と再会する。彼女はユリという新任の非常勤講師だった。みるめとユリは次第に惹かれ合っていく。それをみるめに密かに想いを寄せる同級生えんは遠くからみつめていた。そんなある日、みるめはユリから結婚しているという事実を知らされる。
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(レビュー) 美大生と非常勤講師の不倫をオフビートに綴った恋愛ドラマ。
年上の女性教師に翻弄される少年という設定は、古今東西どこにでもあるものでさして目新しさはないが、本作の魅力はドラマ云々というよりも、もっと別なところにあるように思う。それはキャストの演技である。
本作は基本的に長回しが多用されている。カメラは固定されたアングルで全体の事象を遠くから捉えて行く。この撮影方法によってその場の臨場感が強調され独特の空間が形成され、そこで繰り広げられる演技もかなりナチュラルなものに見えてくる。
例えば、みるめとユリが学校の教室でいちゃつくシーン。青い血がどうのこうのと他愛も無いことを言いながら笑うシーンは、二人の演技が演技とは思えないほどに即興的なものに見えてくる。カットの切り替えしやカメラが接近すればどうしても演技っぽく見えてしまうところを、この映画はどこまでも一定の距離感で被写体を捉え続けるのだ。
また、みるめがユリのアトリエに招かれてヌードモデルを強要されるシーン。みるめが1枚1枚服を脱がされていく過程をカメラは1カット1シーンで描いている。ここは非常にスリリングだった。同様のスリリングさは、アトリエで二人が初めてキスをするシーンにも感じられた。
こうした俳優の素の表情を生々しく捉えたドキュメンタリータッチは、その場の空気をリアルなものとして浮かび上がらせる。次にどんな言葉が飛び出してくるのか?どんな行動に出るのか?という予想を喚起させ、一見するとダラダラと撮っているように見えるが、実は案外計算されているかもしれない。
かつて、アメリカン・インディーズの雄J・カサヴェテスが、妻J・ローランズを執拗なフェイス・アングルで捉えた「フェイシズ」(1968米)という作品があった。1ショットでローランズの狼狽ぶりを粘着的に追いかけながら、作品に息詰まるような興奮と高揚感をもたらした傑作だ。俳優のリアルな表情ほど作品にスリリングさをもたらすものはないと思う。「フェイシズ」はそれを証明して見せてくれるような作品だった。
本作はそれとは逆の引きの固定ショットで俳優の素の魅力を引き出している。しかし、やはり「フェイシズ」と同様の興奮、高揚感が感じられた。そういえばこの演出は相米慎二監督にも似たところがある。いずれにせよ、キャストの演技を演技っぽく見せない演出として、各所のロング・テイクは大変効果的にシーンを盛り上げていると思った。
ただ、全てのロング・テイクが成功しているか‥と言われれば、中には少し退屈してしまうような箇所もあった。シーンの中で起こる事象に余りにも動きがない、キャラクターの感情の機微が上手く表出していない。そういったシーンは、延々と流されても空疎なだけで余り面白くはない。正直、中には見ていて結構きついものもあった。比較するのも恐れ多いが、世界的巨匠テオ・アンゲロプロスが捉えるショットは一つ一つが完成度の高い“画”の連続である。そこまでのクオリティを求めるのは流石に酷と言うものだが、逆のことを言えば映画全体のリズムのことを考えた場合、思い切った緩急をつける工夫も必要だったのではないだろうか。
キャストではユリを演じた永作博美が好演している。どちらかと言うと童顔の女優だが、それとのギャップで見せる今回の悪女キャラは意外性があって面白く見れた。また、どこか愛らしさが入り混じることで、本来憎々しくなってもおかしくない役どころを軽やかに見せている所も良い。彼女の魅力だろう。