巨匠・今村昌平の監督デビュー作。実に賑わしい映画で氏の作品の特徴がよく出ている。
「盗まれた欲情」(1958日)
ジャンルロマンス・ジャンルコメディ
(あらすじ) 国田は大阪下町のテント劇場・山村一座で芝居を書いている。小屋は毎日閑古鳥が泣いており、ついに小屋を出ていく羽目になってしまう。その後、国田は大学時代の旧友からTV局の仕事に招かれたが、一座の看板娘・千鳥のことを密かに惚れていたこともあり、一座の巡業に同行することにした。とはいえ、彼女は一座のスター栄三郎の女房である。叶わぬ恋に苦しむ国田。そんな彼に千鳥の妹・千草が思いを寄せる。
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(レビュー) ドサ回り一座に起こる悲喜こもごもを軽快に綴った人情ドラマ。
国田と千鳥、千草の三角関係をメインにしながら、一座のドタバタ騒動が快活に描かれている。
三者の心中を深く掘り下げたメインのドラマは面白く見ることが出来た。結末にもしみじみとさせられた。
しかし、彼らの周縁で展開されるサブエピソードは精彩に欠く。基本的には艶笑風味が貫かれていて狙いとしては面白いと思うのだが、内容を詰め込み過ぎた感じがする。どうにもエピソードの食い散らかしが目立つ。連続ドラマのような長編だったらいいのかもしれないが、1本の映画として見た場合散漫である。特に、村の青年たちのエピソードは特段必要なかったよう気がした。カメラを一座の中に固定して描いた方が見る方としても集中しやすかったように思う。
監督はこれがデビュー作となる今村昌平。本作の脚本家も本作がデビュー作のようだが、群像劇の料理の仕方に拙さを感じた。また、シリアスで意味深なタイトルも、作品全体のテイストとはとても釣り合っているとは言い難い。
ただ、今村独特の演出と言えばいいだろうか、バイタリティーに溢れる雰囲気はこの処女作からすでに炸裂している。
例えば、冒頭の大阪下町の通りで行われる喧嘩のシーン、巡業先の村人たちが一座を大歓迎するシーン、観客で溢れかえる小屋の様子といったあたりは、後年のパワフルで熱気に溢れた今村作品の特徴よく出ている。とにかく全員が声も動作がでかい。そして、その一つ一つがユーモラスだ。“喧噪”の監督。今村昌平の原点が見られる。