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ウィンターズ・ボーン

少女のひたむきな戦いをシリアスに綴ったハードボイルド作品。
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「ウィンターズ・ボーン」(2010米)星3
ジャンルサスペンス・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 ミズーリ州の片田舎に、精神疾患の母と幼い姉弟の面倒を見ている少女リーがいた。父は麻薬密売の罪で起訴され、その保釈金のために家と土地を差し押さえられている。その後、肝心の父が行方不明になってしまい、いよいよ家族は路頭に迷いそうになる。リーは必死になって父親探しに奔走する。しかし、中々足取りがつかめなかった。そんなある日、叔父のティアドロップが、父はマフィアと関わっていたことを打ち明ける。
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(レビュー)

 家族を支える少女が行方不明の父を探して闇社会に足を踏み入れいていくヒューマン・サスペンス作品。

 曇天の下、貧困に喘ぐ家族の暮らしぶりが延々と描かれているので、決して晴れ晴れとするドラマではないが、ラストには少しだけ安堵させられた。見ている最中はかなり息苦しかったが、このラストで救われたような気がした。

 物語はいわゆるイニシエーション・ドラマとして実に周到に作られている。言ってしまえば、少女が今まで知らなかった未知の世界を体験しながら成長していく‥という冒険談で、エッセンスだけを抜き取れば実に普遍的な物語である。しかし、だからと言って決して今作が凡庸な映画だと言うつもりはない。

 第一に閉塞的な田舎町を舞台にした点が魅力的である。全編に渡ってかなり異様な雰囲気が漂い、これが結構怖い。S・ペキンパー監督の「わらの犬」(1971米)のイヤ~な雰囲気に近い。
 また、主人公を少女に設定した点も大きなセールス・ポイントだと思う。これが少年だったら間違いなく父を乗り越えていく息子の話‥というような手垢のついたドラマになっていただろう。女で子供。この世で一番非力で弱い存在であるから、このドラマは面白く感じられるのだ。

 リーはまだ17歳という設定の割に、その言動は随分と大人びている。周囲の大人たちに物おじせず、時には彼らを黙らせるような鋭い指摘もする。父親がいなく母親が病気という特殊な家庭環境が彼女を強くさせたという見方が出来よう。
 ‥と同時に、彼女はやはりまだ年相応の少女なのである。
 例えば、彼女の交友範囲は映画を見る限りごく一握りに限られている。過疎化した村社会では当然という気もするが、そもそも彼女はまだ大人社会にコネクションを持つ術を知らない未熟な若者である。
 あるいは、切羽詰って安易に軍隊に入ろうとするシーンが出てくるが、冷静に考えれば未成年である彼女が入隊出来るはずがない。つまり、リーはまだまだ思慮の浅い子供なのである。

 思春期の少年・少女とは、大人と子供の間で揺れ動く不安定な存在である。本作のリーも正にその通りで、事あるごとに不安定な心理状態、どっちつかずな宙ぶらりんな心理に陥ることでキャラクターのリアリティ化が図られている。そして、キャラクターがリアルになってくれば当然見る方としても感情移入しやすくなり、彼女に助かって欲しい、家族が救われて欲しい‥と願わずにいられなくなる。本作の上手さは正にここで、リーというキャラクターに息吹を与えるための作劇に一切手を抜いていない所にある。これは見事だと思った。

 そんなリーがボロボロになりながら様々な障害や困難に立ち向かっていく姿は実にケレンミに溢れている。
 例えば、マフィアの巣窟に単身乗り込んで父の行方を聞き出そうとするシーンがある。これはこの間見た「トゥルー・グリット」(2010米)における少女マティが陥る状況によく似ていると思った。父殺しの復讐を果たそうと過酷な戦いに身を投じていくマティの勇気は実に印象的だったが、それと共通するような頼もしさがこのリーには感じられた。
 そういえば本作の舞台はミズーリ州の寒村である。連想されるのは西部劇、そして劇中にはカントリー・ソングが度々かかる。この作品を見て何となく懐かしい感じがするのは、こうした西部劇テイストが随所に散りばめられているからなのかもしれない。

 そして、リーの勇気が試される最大のクライマックスとも言うべき川のシーン。ここは実に見応えがあった。罠ではないか?という危険な匂いがしてかなりハラハラさせられる。この映画はこれでもか‥というくらい彼女を追いこむ仕掛けが用意されているが、このシーンの追い込み方はちょっと尋常ではなかった。中盤のリンチも凄かったが、さすがに直接描写はなかった。しかし、このクライマックスは描写の省略などせず、ひたすらリーの苦渋を深々と捉えている。

 監督はこれが長編2作目の新人監督らしいが、このクライマックス以外にもここぞというシーンで息詰まるような緊迫した演出を重ねてくる。中々手堅い演出をする作家だと思った。
 ただ、設定説明に費やす箇所に一部拙さも見られ、特に前半はドラマが中々前に進まないので少しじれったく感じられた。ここをサラリと描ければもう少し食いつきの良い映画になっていただろう。このあたりの処理を上手くこなせればかなりの監督になるような気がする。

 キャストはほぼパーフェクトだと思う。昨年見た「フローズン・リバー」(2008米)にも感じたことだが、アメリカのインディーズ界にはまだ見ぬ実力派がゴロゴロと転がっているものだ。リーを演じたJ・ローレンスは本作でアカデミー賞他、数々の映画賞で主演女優賞にノミネートされた。今後どういった活躍を見せていくのか楽しみである。
[ 2011/11/13 01:32 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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