陰鬱なトーンが貫通された不気味なサスペンス映画。ある意味トラウマになりかねない作品である。
「みな殺しの霊歌」(1968日)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 孤独な工員、川島は高層マションの1室で有閑マダムを乱暴に犯しナイフで惨殺した。彼は彼女から聞き出した4人の女達を次々と殺害しようと付け狙う。彼にはそうしなければならない理由があったのだ。一方で、川島は行きつけの食堂で春子という女性に密かに想いを寄せていくようになる。
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(レビュー) 連続殺人犯の心の闇をシャープに綴ったサスペンス作品。
ストーリー的にはかなり消化不良な感じがして、お世辞にも完成度が高いドラマとは言い難い。警察の動きを含めた周辺描写の甘さ、川島の殺人動機を含めたバックストー リーの踏み込み不足が、ドラマの説得力を失わせてしまっている。川島と春子のささやかな交流もいまひとつ弱い。二人の絆を強めるために春子の過去にまつわる悲劇を用意しているが、いかんせん唐突過ぎる上に、第三者の伝聞という形で川島に分かる格好になってしまいドラマチックさが薄まってしまっている。上映時間が90分と短く一つ一つが表層的で食い足りなかった。構成に山田洋次の名前がクレジットされているが、らしくない仕事振りと感じた。
ただ、異様な雰囲気を漂わせたシャープなモノクロ映像、川島を演じた佐藤允の異形の面構えが強烈なインパクトを残し、ストーリーの物足りなさを補って余りある<映像作品>になっている。
特筆すべきはカメラだろう。いわゆる我々が普通に生活している中で見るアイ・レヴェルのアングルはほとんど登場してこず、ほぼ全編がロー・アングルで撮られている。これによって非日常性、不安、被写体となる川島の孤高性が強調され、緊張感が持続する。明らかに計算されたカメラ演出だろう。
また、シャープなコントラストで描かれた殺害場面も、川島の残酷性を浮かび上がらせ印象に残った。特にアバンタイトルの殺人シーンは白眉の出来栄えである。切れ味鋭いモンタージュが川島の暴力性を見事に表現している。
尚、春子を演じた倍賞千恵子も中々の好演を見せている。寅さんシリーズではお馴染みの朗らかな笑顔をここでも通しているのだが、その裏側に一抹のダークさを忍ばせた点は新鮮だった。彼女にはある悲劇的な過去があり、それとなく匂わす演技は見応えがあった。ただし、先述の通りここでもシナリオの詰めの甘さが惜しまれる。春子の裏の顔を十分に引き出しきれず、その結果終盤の彼女の言動が安易に写ってしまった。