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若者たち

5人兄弟の悲喜こもごもを描いたホームドラマの秀作。
若者たち [DVD]若者たち [DVD]
(2007/12/21)
石立鉄男、夏桂子 他

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「若者たち」(1967日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 佐藤家には5人の兄弟がいる。早くに両親を亡くし長男・太郎が父親代わりになって弟達の面倒を見ていた。しかし、度々兄弟喧嘩が起こり、それに嫌気がさした長女オリエが家を出て行ってしまう。彼女は親友マチ子のアパートに引越した。マチ子は勤めていた会社が倒産したばかりで訪問販売の仕事をしていた。しかし、売り上げが中々伸びず苦しい生活を強いられていた。さすがにオリエはいつまでも居候することが出来ず、結局我が家に戻ってくる。一方で、次男・次郎はマチ子に淡い恋心を抱き親交を深めていった。そして、長男・太郎には縁談の話が持ち上がる。しかし、彼は一家を守るという責任感からそれを断ろうと考える。
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(レビュー)
 貧しいながらも逞しく生きる兄弟の姿をエネルギッシュに描いた人間ドラマ。

 前年に放送された同名テレビシリーズを映画化した作品で、後に2本の続編が作られた。スタッフ、キャストはテレビシリーズと同じである。何となくストーリーが駆け足気味な感じを受けたのだが、元々テレビで放映していたストーリーを強引に切り詰めたからなのかもしれない。
 とはいえ、物語の展開は自然に追いかけることが出来、破たんするような箇所も余り見られない。群像劇としてよくまとまっており、クライマックスもきちんとドラマを収束させる方向で上手く盛り上げられていると思った。特に、末吉の大学受験にまつわるエピソード、オリエの悲恋のエピソードにはしみじみとさせられるものがあった。

 5人兄弟はそれぞれに個性的に描き分けられている。長男・太郎は工事現場の監督をする一家の大黒柱。次男・次郎はトラックドライバーをしているお調子者。三男・三郎は大学で学生運動にのめり込んでいる生真面目人間。四男・末吉は大学受験を控えている多感な学生。そして、紅一点長女・オリエは家庭を切り盛りする母親代わりのように存在している。彼らは夫々に問題を抱えながら日々の暮らしを送っているのだが、時に助け合い、時に対立しながら家族の絆で結ばれている。

 ドラマの大きなポイントとなるのは、家族の中心に存在する長男・太郎を起点としたエピソードになる。弟たちのために結婚もせずひたすら家計を支える献身ぶりは実に尊いものに映る。しかし、その献身ぶりは時に弟たちにとってはお節介となり彼らの反動を呼び起こすことになる。

 それを表したクライマックスの壮絶な兄弟喧嘩は見応えがあった。末吉の大学受験の顛末を描くこのシーンは、太郎の意見が平和な食卓に嵐を巻き起こすことになる。末吉の受験を心配する太郎と、三郎、末吉といった弟達が意見を対立させていくのだ。そして、コトは末吉の受験問題から、金と愛どちらが大切かという人生観、そして血縁にどんな意味があるのか?兄弟とは何か?家族とは何か?という問いにまで発展していく。演者の力演も相まって実に見応えのあるシーンになっている。

 また、このシーンにおける三郎の「兄弟だから他人なんだよ」というセリフには考えさせられるものがあった。兄弟はいつかは家を出て夫々の人生を歩んでいかなければならない。彼はそのことをよく知っていて、だからこそこのセリフが出てきたのであろう。
 しかし、これは弟達をいつまでも自分の目の届くところに置いておきたいという太郎の考え方とは真っ向から対立するものである。
 大家族が当たり前だった昔なら太郎のような考え方が普通なのだろうが、時代の移り変わりとともに家族の在り方も変わってきた。核家族化していった当時の状況を考えれば、太郎の考え方は旧態的で三郎達に理解できないのは当然のことなのかもしれない。三郎の「兄弟から他人なんだよ」というセリフには、そういった家族の在り方の変遷が読み取れて面白い。

 また、オリエの悲恋は奥ゆかしく描かれており、こちらも印象に残った。ここには被爆の問題が絡んでいるのだが、まだ当時こうした偏見が世間に蔓延してたことを思うと実にやるせない気持ちにさせられた。これも時代の証憑として興味深く見れるエピソードだった。

 全体的に演出は堅実にまとめられているが、先述の通り駆け足気味な展開が前半で目につく。やや性急に写る箇所があったのは残念だった。特に、各人物を紹介するアバンタイトル、三郎にまつわるエピソード(特に学生運動との距離感が曖昧なまま処理されていしまったこと)には不満を持った。また、マチ子と次郎の関係ももう少し突っ込んで描いてほしかった気がする。

 今作はトータルで90分に満たない作品である。このあたりは、明らかに時間的な制約がネックになっているという気がする。クライマックスシーンのように見せ場となる所は丁寧に描写されているのだが、細々とした所で描き不足が見られた。おそらく尺の問題で全てをパーフェクトに描けなかったのだろう。

 ちなみに、音の演出については数か所、感心させられるものがあった。この映画は時々無音になるシーンがある。例えば、次郎がマチ子に詰め寄るバーのシーン、オリエと戸坂が靴屋で再会するシーンなどがそうだ。二人の間だけで流れる特別な時間。それを意識させるような静寂に見ているこちらも思わず引き込まれてしまった。メリハリを利かせた音の演出が光る。

 キャストでは太郎を演じた田中邦衛の訴えるような目の演技が素晴らしかった。元々こうした不器用なキャラはこの人の得意とするところであるが、本作ではその魅力がよく発揮されている。
 また、彼の婚約者を演じた小川真由美のクールな佇まいも印象に残った。川の堤防における彼女の魅力と言ったら尋常ではない。それまでは自己主張できない箱入り娘だと思っていたのだが、ここで彼女はもう一つの顔を見せる。女の二面性が見事に表現されてるシーンだと思う。
[ 2011/11/29 00:59 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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