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恋の罪

遅れてきたエロチック・サスペンスの極北!
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「恋の罪」(2011日)星3
ジャンルサスペンス・ジャンルエロティック
(あらすじ)
 1990年代、渋谷のラブホテル街の1室で死体が発見される。駆けつけた女性刑事・和子は死体を見て驚いた。切断された胴体と下半身がマネキンと接合されていたのだ。早速、彼女は失踪者リストの中から死体の特徴に近い人物像を割り出していくのだが‥。
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(レビュー)
 愛に溺れていく3人の女たちの姿を過激な描写で綴った戦慄のサスペンス作品。

 監督・脚本の園子温は、90年代に実際に起こった東電OL殺人事件にインスパイアされて本作を作ったという。確かエリート社員が裏では売春をしていたということで大きくマスコミに取り上げられた事件だったと思う。前作「冷たい熱帯魚」(2010日)は埼玉愛犬家連続殺人事件をモチーフにしており、彼は立て続けに世間を賑わせた事件を題材に作品を撮ったということになる。リアルな事件の裏側に見えてくる人間の恐るべき真実の姿。それを暴いてみせたわけだ。かつての野村芳太郎がそうだったように、園子温は今正に社会と人間の関係性という観点から作品を作り出すことに執心しているのかもしれない。

 本作は3人の女たちの運命を描くサスペンス・ドラマになっている。しかし、純然たるサスペンスを期待して見てしまうと少し肩透かしを食らうだろう。
 まず、この事件を追いかける女性刑事・和子の視点で映画は始まる。普通ならこのまま彼女の視点で事件を追いかけていくのだろうが、あくまで物語の視点は神の視点、つまり第三者の視点で展開されていく。事実、和子の捜査描写を見てみると、現場検証、相棒との捜査会議、聞き込み、犯人からの事情聴取といった行程を辿り、彼女は事件の解決をするどころか振り回されているだけである。おまけに事件の真相は判明するが、それが具体的にどういう形でどうなったのかという所については観客の想像に託されている。つまり、彼女はあくまで事件の傍観者であり、彼女に感情移入しながら事件を追いかけていくわけではないのである。サスペンス映画としての見せ場もカタルシスも用意されていないのだ。

 ただ、本作の狙いはそうしたエンタメ的な面白さではなく、タイトルにある通り〝満たされぬ欲望″と〝堕ちた罪の意識″、その狭間でもがき苦しむ3人の女たちの葛藤を描くことである。こちらに目を向ければ、実にハードな描写の連続で見応えがあった。

 まず、最初に登場する第1の女・和子は幸せな家庭を持ちながら、その一方では不倫をしている。今回担当する事件にも不倫はキーワードとして関係しており、その真実に近づくにつれて彼女は罪悪感に苛まれていくようになる。例えば、事件現場でのオナニーシーンは正に彼女の罪悪感を衝動的に表した葛藤場面であろう。

 次に、欲望と罪の意識の狭間で揺れる女として第2の女・いずみが登場してくる。この映画の主人公は彼女になる。彼女はベストセラー作家の夫をかいがいしく支える貞淑な妻であるが、結婚生活に物足りなさを覚えている。このまま何の変化もない日常を送るだけで自分の人生は終わってしまうのだろうか‥という不安からスーパーのパートの仕事を始める。そこでモデルの仕事に誘われ、あれよあれよという間に淫らな世界に足を踏み入れて行くようになる。貞淑な妻としての自分、淫らな自分。この二つに彼女の心は引き裂かれていく。

 そして、そんないずみの前に第三の女・真知子が現れる。彼女は他の二人とは少し違う。彼女は昼はエリート大学の助教授をしながら、夜は渋谷で売春をしている。初めから二つの顔を使い分けているので、和子やいずみのような罪の意識、葛藤は無い。ただ、彼女の場合は他の二人には無い深い葛藤が存在する。事件のネタバレになってしまうので書かないが、これは実におぞましいものだった。

 このように三者三様、女たちは夫々に愛を求めて葛藤している。では、何故彼女たちはここまで傷だらけになりながら苦しまなければならなかったのだろうか。
 和子には優しい夫と可愛い娘がいる。いずみは誰もが羨むベストセラー作家の妻で何不自由ない暮らしを送っている。真知子は高名なエリート助教授で学生からも慕われている。経済的にも不自由していない。
 しかし、彼女たちには他人には分からない不満があったのだ。和子は刑事という仕事がストレスになっていた。いずみは窮屈な夫婦生活に疲れていた。真知子には過去に深いトラウマがあった。こうした不満が爆発して不倫、売春に走ったのではないかと想像できる。つまり、彼女たちは今の生活に真実の「愛」を見いだせなかったのである。
 世間的には欲求不満の人妻が出会い系で遊び相手を探す‥なんて話をよく耳にするが、彼女たちもその程度で不満を解消できていれば良かったのだろう。しかし、3人の求める「愛」は、少なくともいずみと真知子に関しては、言葉だけや見せかけの愛では満足できなかったのである。劇中の真知子が語っている。「肉体を持った言葉」でしか証明されない「愛」が本当の「愛」なのだ‥と。この言葉の意味は深い。

 ここに登場する3人の女たちは、程度の差こそあれ「愛」の捉え方が個性的で非常にラジカルである。特に、真知子の場合はここまでイッてしまうともはや引くレベルであり、かえって非情さを通り越してブラックコメディのように映りかねないのだが、この過剰さも含めて〝園監督印”‥ということだろう。好き嫌いはハッキリ分かれようが、個人的にはここまで破天荒な「愛」を見せてくれたことに拍手を送りたい。

 また、園子温は元々は詩人である。先述の「肉体を持った言葉」というように、劇中には数々の印象的なセリフが散りばめられている。その意味を噛みしめると更に作品を深く味わえるだろう。

 尚、今回も各所に戯画的なエンタメ戦略、いわゆる園子温流〝ハッタリ”とでも言うべき〝遊び”が仕込まれている。個人的にはお茶会のシーンが最も面白く見れた。監督の、ココ突っ込み所ですから!という声が聞こえてきそうでニヤリとさせられた。
[ 2011/12/01 02:47 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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