淡々とした中にも女の生き方がしっかりと描きこまれていて見ごたえがある。
「やわらかい生活」(2005日)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 優子はカウンセリングを受けている孤独な女性である。ネットの出会い系サイトで知り合った男に連れて行ってもらった蒲田の町が気に入り、彼女はすぐに安アパートに引っ越しした。そんなある日、駅前で学生時代の友人本間に再会する。彼は市議会議員に立候補していた。その夜、二人は酒を飲んでベッドを共にする。しかし、本間は彼女を抱けなかった。その後、優子は両親の七回忌に出席するため実家の九州へ帰省する。そこで幼馴染祥一と再会する。彼は妻子と上手くいかず孤独だった。その後二人は東京で再会し‥。
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(レビュー) 躁鬱病を抱えた女性と彼女の周囲に集まる男達の関係を綴った人間ドラマ。
監督は廣木隆一、主演は寺島しのぶ。この二人は
「ヴァイブレータ」(2003日)に続いて二度目のコンビとなる。寺島演じる主人公はどちらも精神的な病を抱える孤独な女性で、何となく重なって見えてくるところが面白い。本作の結末をそのまま「ヴァイブレータ」のオープニングに繋げてみることもでき、並べて見ることで姉妹作のような解釈もできる。
ストーリーは色々と舌足らずな部分があり、決して説得力があるわけではない。例えば、優子の生活費がどこから出ているのかサッパリ分からないこと。本間の選挙活動に具体的描写がないためリアリティが乏しいこと。こうした説明不足な所にドラマ設定の綻びを感じてしまう。
ただ、そうした不満はあるものの、本作の魅力はまた違うところにあると感じた。優子の内面に迫っていく肝となるストーリーである。そこについてはしっかりと作られていて、彼女の孤独感はこちら側によく伝わってきた。
彼女は自らの孤独を紛らすかのように次々と男たちと交わっていく。EDで悩んでいる大学時代の友人本間。妻子と別居している幼馴染祥一。優子と同じ精神的な病を抱えているヤクザ青年。倒錯的な世界でしか自己を見いだせない出会い系サイトの中年男。彼らは皆、優子と同じように孤独に捕われながら生きている男達である。
映画は優子と男たちの交流を通して孤独からの再生を紡いで見せていく。昨今〝癒し”という言葉が流行ったが、この関係からもそのニュアンスは読み取れる。ただし、互いが悩みを抱える者同士、補完しあう関係であることを鑑みれば、一方的な〝癒し”とは区別して考えられる。言わば、共に考え、共に苦しみながら夫々が強く生きていこうとする共同作業のように思えた。〝癒し”という言葉を用いて安易なヒーリング映画に堕しなかった所に作り手側の真摯さが伺える。
と同時に、人間の孤独は「ヴァイブレータ」でもテーマになっていたことの一つである。これは人間関係が希薄になりつつある現代社会の一つの病理的現象と言っていいだろう。ラストの涙が正にそのことを言い当てているが、これには実にやるせない思いにさせられた。
本作はセリフのやり取りが面白い。原作は芥川賞作家、絲山秋子のデビュー作『イッツ・オンリー・トーク』である。おそらく会話の面白さは原作者のセンスなのかもしれない。言葉の裏側にそのキャラクターのバックストーリーを想像しながら見ていくと、この映画は一段と味わい深く感じられる。更に、優子には虚言癖があり、そこを探っていくとまるでミステリー映画のような面白味も感じられる。
また、会話中に登場する比喩表現にも良いものが見つかった。“ぬいぐるみ”“お安い隙間家具”といったドライでコミカルな比喩は実に秀逸だ。優子が飼う金魚も良いネーミング・センスをしている。
キャストでは寺島しのぶの自然体な演技が実に見事であった。役作りとしては前作「ヴァイブレータ」と被る部分もあるのだが、それを難なく演じて見せる辺りはさすがである。
一方、彼女の相手役を務める男優陣では祥一を演じた豊川悦司が中々良かった。この人は男前過ぎてどうしても役の幅を狭めてしまう傾向にあるのだが、今回は情けなさと優しさを滲ませながら味わい深い人物像を作り上げている。逆に、今一つだったのはヤクザ青年を演じた妻夫木聡である。好青年振りが邪魔になり余りヤクザに見えなかった。そもそも彼の出で立ちからして今時そんなヤクザはいない。
尚、本作の舞台はほぼ蒲田の商店街や下町に限定されている。こんな風景が蒲田にあったのか‥と新鮮な思いで見ることが出来た。冒頭の観覧車、銭湯の煙突等のロケーションが上手く画面のアクセントとして効いていた。物語の舞台も本作の魅力の一つと言っていいだろう。