女優の成功をドラマチックに綴った愛憎ドラマ。
「イヴの総て」(1950米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) イヴはアメリカ演劇界で最も栄誉ある賞を受賞した。彼女がここまで成功したのは周囲の力添えがあってのことだった。------8ヶ月前、大女優マーゴの出待ちをしていたイヴは、そこに現れた劇作家の妻カレンによって楽屋に招待される。謙虚で気がきくイヴはマーゴに気に入られ、そのまま付き人になった。そして、そんな彼女にマーゴの夫で演出家のビルは惹かれていく。やがて二人の仲を知ったマーゴは嫉妬に駆られて仕事に悪影響が出始めた。落ちぶれていくマーゴをよそに、イヴはカレンにオーディションを受けたいと申し出る。
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(レビュー) スターに憧れる女優志願の女が、様々な人脈を使ってショウビズ界の頂点に登りつめて行く愛憎ドラマ。
バックステージものとしてはよくある話だが、人間の虚栄心と愚かさを赤裸々且つ軽やかに綴ったシナリオと演出は実に見応えがあった。多少劇画チックな所もあるのだが、エンタテインメントしてはこのくらいの過剰さがあっても良いと思う。各人物が辿るドラマチックな運命は最初から最後まで目を離すことが出来なかった。
物語はイヴが成功した所から始まる。言わば、結末がどうなるのか最初から分かった上でドラマが回想されていく種明かし的な構成になっている。興味の対象となるのは、イヴがどうやってたった8ヶ月間で頂点に登り詰めたのか?その経緯となる。華やかなステージの裏で繰り広げられるえげつない嫉妬と陰謀の嵐、それが回想の中で徐々に露わになってくる。
イヴの業界への接近のし方は実にしたたかである。大女優や劇作家、演出家、批評家、パトロンに対して、彼女はまず不幸の身の上を語って同情を引いていく。
例えば、マーゴの女優としての足跡を褒め称え、自分は全てを見てきたファンであることを強調する。マーゴは気分を良くしてイヴを付き人に雇う。カレンの夫で劇作家のロイドに対しては、マーゴが彼の脚本を改変して演じることに腹立たしく思っているこを知った上で、自分なら脚本をそのままに演じて見せることができるわ‥と言ってご機嫌をとる。
このように実にしたたかに相手を持ち上げ自分を売り込んでいくのだ。傍から見れば絶対に裏に何かあると思ってしまうし、実際に画面に映るイヴのアップから “食えない女”という雰囲気がプンプン匂って来るのだが、相手はいずれも業界で成功を成し遂げた者達である。天狗になってしまい、まさか‥という慢心があるのだろう。そこをイヴは巧妙についてくるのだ。このあたりのかけひきは見ていて実に面白い。
尚、回想は基本的にカレンのナレーションで進行する。彼女はどちらかというと第三者的な視点で一連の成り行きを見守る立場におり、言わば狂言回し的な存在である。ただし、場面によってはマーゴの視座で語られる箇所もある。そのあたりに若干統一感の無さは伺えた。
とはいえ、イヴに“してやられた"と気付くマーゴの凋落振りは実に憐れで、その身になって考えてみる不憫でしょうがなかった。美人女優にとって避けて通れぬ老いという壁、それに打ち破れていく姿は実に残酷だ。マーゴの視点で描く構成の妙だろう。本作はイヴのサクセス・ ストーリーであるが、その一方で彼女に踏み台にされていった人々の怨念のドラマという捉え方も出来る。マーゴとイヴの関係は最初と最後では立場が逆転しており、そこに人生の数奇を見てしまう。
キャストも見事な演技を披露している。イヴを演じたA・バクスターのしたたかな振る舞いは実に見事だった。マーゴの堕落と改心というキャラクターアークをしっかりと演じきったB・デイヴィスの演技も高く評価したい。彼女は「何がジェーンに起こったか?」(1962米)で、女優を夢想する少女趣味な老女を醜く怪演していたが、人間の醜悪さをストレートに画面に焼き付けたという点において、今回の役所との共通性が感じられた。
ウィットで皮肉に富んだセリフの数々も素晴らしい。「シートベルトをつけなさい、今夜は荒れるわよ‥」「花びらをちらして逃げ出したのね‥」「愛し愛されることのない野心と才能‥」センスのいいセリフが各所に登場し映画を味わい深いものにしている。
尚、本作はこの年のアカデミー賞の主要部門をほぼ独占している。ただし、主演女優賞だけはW主演が裏目に出て票割れを起こし受賞を逃してしまった。尚、同じバックステージ物の傑作として名高い「サンセット大通 り」(1950米)も同年に製作された作品である。この両作品はこの年のオスカー・レースを激しく競い合った傑作である。
また、P・ヴァーホーヴェン監督の「ショーガール」(1995米)は本作をベースに敷いていると言われている。しかし、出来上がった作品はアメリカの最低映画を決めるラジー賞をほぼ独占しており、同じネタを扱ってもこうも評価が違うのか‥という何だか笑うに笑えない話もある。