人気歌手と人気コメディアンの息の合ったステージ・パフォーマンスが見所。
「フォー・ザ・ボーイズ」(1981米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル音楽
(あらすじ) かつてのスター、エディ&ディクシーの全米芸術勲章のテレビ放送が決まる。しかし、ディクシーはそれを辞退した。自分の出したレコードを聴きながら彼女は波乱に満ちた半生を振り返る-----第2次世界大戦時、コーラス専門の歌手だったディクシーは、プロデューサーをしている叔父からイギリスに招かれる。そこで彼女は慰問団の歌手として華々しいデビューを飾った。その時に知り合ったのがコメディアンのエディである。二人はコンビを組みながら各地を巡業し喝采を浴びた。しかし、そんな栄光もある日突然終わりを告げる。従軍カメラマンをしていたディクシーの夫が戦死したのだ。落ち込むディクシーは幼子を抱えてステージから姿を消してしまう。
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(レビュー) 半世紀にわたる女性歌手の光と影の人生を、様々なステージシーンで綴った人間ドラマ。
全体的に話は軽快に進められており3度の戦争体験を含め、実にドラマチックに構成されている。ただし、場面によって表層的で流され気味なシーンがある。話の分岐点が幾つか設けられているが、いずれも葛藤が弱く映った。全体が回想形式になっていることもあるのだが、どうしても筋書の説明だけになってしまっている。
本作の見所は何と言ってもディクシーを演じたB・ミドラーの軽妙なパフォーマンスになろう。正に彼女ありきな映画になっている。特に、彼女が初舞台を踏む序盤の慰問シーンは、テンポの良い会話、バックステージでのトラブルを機転を利かせたアイディアで切り抜ける所作など、彼女の魅力が存分に発揮されたシーンとなっている。
監督はM・ライデル。以前紹介した
「ローズ」(1979米)もこの二人のコンビで作られた映画である。ロック歌手の壮絶な生きざまを活写した前作と打って変わって、今回は割りと軽妙な作りになっている。シリアスな場面もあるにはあるのだが叙情的に撮られているのが特徴で、例えば終盤の戦場シーンはスローモーションを多用することで悲劇色を強く打ち出し情感に訴えるような作りになっている。個人的には前作のような濃密でリアリティのある演出の方が好みなので、こうした情感に訴える演出は受け付けがたいのだが、監督の中では前作との差別化を図りたいという気持ちがあったのだろう。
ただ、全てが大仰に演出されているというわけではなく、前作に通じるようなリアリズムに拠った演出も幾つか見られた。例えば、楽屋で二人が数十年ぶりに再会するシーン。ディクシーとエディの対峙がスリリング且つ赤裸々に映し出され、熱の篭った演技合戦には目を見張るものがあった。B・ミドラーの演技を最大限に引き出している。
相手役エディを演じたJ・カーンも実に味のある演技を見せてくれている。B・ミドラーとの掛け合いは楽しいし、歌やダンスも中々上手い。そして、なんと言っても老いて立つステージ・シーン。ここでの彼は魅せる。これまでの人生を集約させたかのような熱演に思わず泣かされてしまった。
尚、ディクシーとエディは夫々に家庭を持っており、基本的には仕事上のパートナーとう関係である。しかし、そうは言っても所詮は男と女である。1回だけベッドを共にしてしまう。欲望に流されてしまう人間の弱さが、説得力を伴うシチュエーションの中で見事に表現されていると思った。変に浮ついたところがなかった所にも好感が持てた。
そして、この1回きりのセックスがあったことで、二人の絆が更に深まっていく所が素晴らしい。普通ならダラダラと不倫に溺れてしまうものだが、二人はセックスを超えた所で結ばれていくのだ。
また、彼らの間にディクシーの息子を置いたことも、人物配置の妙と言える。彼がいることで、決してドロドロとした不倫関係には発展しない。〝安心感”みたいなものが補填されている。
本作は特殊メイクも中々頑張っていると思った。老いてからの二人の演技に多少張りがありすぎる感じはしたが、首や腕のしわといったところまで念入りに作られている。欲を言えば、B・ミドラーのメイクと衣装は若干派手過ぎるので、もう少し控え目だった方が良かったかもしれない。