乾いたタッチで描く緊迫感みなぎる実録犯罪映画。映像化した勇気に拍手。
「ゴモラ」(2008伊)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) ナポリを拠点とする犯罪組織カモッラ。そこには様々な人々が暮らしていた。少年トトは配達の仕事をしながらいつかカモッラに入りたいと思っていた。家賃の取り立てをしながらカモッラに上納しているドン・チーロは、最近の抗争に危機感を募らせていた。無軌道に生きるチンピラ少年マルコとチーロは、強盗を繰り返しながらいつかナポリの帝王になることを夢見ていた。組織の産業廃棄物処理会社に就職したロベルトは、そこで非情な現実を目の当たりにする。組織の下請け工場で仕立て屋をしているパスクワーレは、新作のオートクチュールの入札に成功し仕事に精を出す。
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(レビュー) イタリン・マフィアと言えば、フランシス・F・コッポラの「ゴッドファーザー」シリーズが思い出されるが、本作に登場するカモッラもその系譜に入る現代のマフィアと言えよう。尚、カモッラは実在する組織である。原作者は組織から暗殺の脅迫を受け海外に逃亡したという。その話を聞くと、よくそんな危険なものを映画化できたな‥と思ってしまった。
物語は5つのエピソードを同時並行に描く群像劇になっている。一部で若干分かりづらい部分もあるが、夫々に見応えがあった。
中でも、少年トトが辿るエピソードは強く印象に残った。年端もいかぬ少年の人生がこうも簡単に狂わされてしまう現実。それを映画はドキュメンタリータッチに描いている。組織に入るための〝ある試験”にも驚かされたが、なんと言っても最後に彼の採った選択。これが抗いようのない現実を強烈に印象づけ、一体彼は今後どんな人生を歩むのだろうか‥と空恐ろしさをおぼえた。
ロベルトのエピソードは、この中では割と救いのあるエンディングを迎える。しかし、これもその後の人生を考えると一概にハッピーエンドとは言い難い。そもそもこの映画は誰が敵で誰が味方か分からない怖さを孕んでいる。ある日突然隣人から「ズドン!」とやられてしまう‥なんてことが日常茶飯事で、ロベルトもいつかそんな風になってしまうのではないか‥という嫌な後味を残す。
このエピソードと同様、パスクワーレのエピソードも組織の〝シノギ”を生々しく切り取ったものである。彼は朴訥とした穏やかな男で、殺伐とした本作にあっておそらく一番観客の共感を得やすいキャラクターになっている。ここではライバル会社である中国企業が登場し彼の運命は狂わされていくのだが、経済成長著しい現在の中国の勢いというものが如実に分かるエピソード、で風刺としての面白さが感じられた。
一方、家賃の取り立て屋ドン・チーロのエピソードはやや薄みという気がした。また、チンピラ少年マルコとチーロの顛末は、本作のテーマ、つまりマフィア社会の非情な現実を端的に言い表したエピソードと言えるが、少々予定調和な感じを受けた。確かに衝撃的な顛末ではあるが、彼らの内面へのすり寄りが甘いため、その非情さが中々画面から伝わってこない。彼らが何故荒んだ青春を送ることになったのか?おそらくその描写が添えられていたならもっとドラマチックに受け止められただろう。
ただ、一方でこうも言える。本作はそもそも作為性を極力排したルポルタージュ色の濃い群像劇である。はなからベタなドラマチックさを求めるべき作品ではなく、この淡々としたところに現実の重みと怖さを見るべきであって、製作サイドの狙いは〝正直に描くこと”その一点に徹している‥と。この映画がどこまで真実を言い放っているのか分からないが、原作者が組織から脅迫を受けたことを併せ考えてみても、いずれのエピソードも事実に忠実なのだろう。
尚、基本的に本作はシリアスなドラマだが、所々にユーモラスな演出も見られる。産廃トラックを子供に運転させるくだりはぞっとさせられるが、同時にかなりのブラック・ユーモアも感じた。おそらくここも事実に即した描写なのだろう。
また、パスクワーレが仕立てたドレスが意外な場所でお披露目されるのももユーモアが感じられた。本人からしてみれば実に皮肉的な顛末だが、職人としての満足感も心のどこかで得られたのではないだろうか。それを想像すると何となくペーソスも沸いてくる。