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ロルナの祈り

幸せが偽装によってしか得られない悲しみ。実に不幸なことだが見応えある。
ロルナの祈り [DVD]ロルナの祈り [DVD]
(2009/08/28)
アルタ・ドブロシ、ジェレミー・レニエ 他

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「ロルナの祈り」(2008ベルギー仏伊)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 パートをしながら麻薬中毒の夫クローディを支える主婦ロルナには、ある秘密があった。実は、彼女はファビオというタクシー運転手の依頼で偽装結婚をしていたのである。クローディはいずれ廃人になって死ぬだろう。そうすれば彼女には次の偽装結婚の相手が待っていた。その一方で、ロルナには同郷の恋人ソコルがいた。彼女は偽装結婚で稼いだ金を元手に彼と小さなバーを構えようとする。
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(レビュー)

 偽装結婚を繰り返す女の苦悩をシリアスに描いた人間ドラマ。

 製作・監督・脚本はダルデンヌ兄弟。彼らの作品は、手持ちカメラによるドキュメンタルなスタイルが一つの特徴である。本作のカメラもロルナの姿をつぶさに監察しながら、彼女が辿る運命を生々しく切り取っている。緊張感と臨場感が最後まで持続し、目の離せない作品に仕上がっている。

 さて、本作は偽装結婚をモチーフにしたドラマである。国籍を得るための偽装結婚という題材は過去になかったわけではないが、何故ダルデンヌ兄弟はこれを描こうとしたのだろうか?それを考えてみると興味深い。

 ベルギーの首都ブリュッセルは、昨今中東系を中心とし移民が大変多いそうである。おそらくダルデンヌ兄弟はこの深刻な社会問題を描こうとしたのだろう。ただし、過去のフィルモグラフィーと照らし合わせて考えてみても、彼らはそれほどガチな社会派作品を撮っているわけではない。むろんそれも目的の一つだったろうが、本当の理由はもう一つあったのではないかと想像できる。それは〝物語的な面白さ″を狙うということだ。

 例えば、過去に偽装結婚をモチーフにした作品ではこういった映画がある。アメリカの永住権を取得するために偽装結婚するカップルをロマンチックに描いた「グリーン・カード」(1990 米)。ヤクザが中国人女性と偽装結婚する浅田次郎原作の「ラブ・レター」(1998日)。あるいは同原作を韓国に置き換えて作られた「パイラン」 (2001韓国)等。これらの作品は、バレたらおしまいというスリリングさ、倫理に反する背徳感が主人公を追い詰めドラマを面白く見せていた。つまり、偽装結婚という素材はサスペンスとメロドラマの複合的な要素を持ち合わせた大変魅力的な素材なのである。だからこうして度々作品のモチーフとして取り上げられる。そして、本作のロルナも常に危機感を募らせながら、恋人に対しては申し訳ないという後ろめたさを抱えて葛藤している。

 また、後半に入ってくると更に別の問題が発生しロルナを追い詰めていくようになる。これは先の偽装結婚物の映画では見られなかった”妊娠”という問題だ。形だけの偽装結婚なのに何故?という疑問が見る側には当然芽生える。そこがこの物語のミソで、後半はこの妊娠を巡って彼女の葛藤がミステリアスに綴られていく。

 元来、セリフに頼らないダルデンヌ作品は観客に不親切と言う事も出来る。しかし、逆に語らない演出がツボに入ると、こういう風に良い塩梅にミステリアスなドラマになっていく。見る側は「一体何が起こっているのか?」という疑問を常に抱きながら映画を見進めていくことになるのだ。こうした観客の好奇心を喚起するタルデンヌ脚本の上手さは、近年冴えわたっていると言っていい。尚、ラストは「そんなことあるわけが無い」という疑問に対する回答がきちんと提示されており、十分にカタルシスが感じられた。

 また、作劇の上手さということで言えば、中盤の〝ある展開″もドラマの転換的として実に巧みに組み込まれていると思った。作風が淡々としているだけに、不意にこうした展開を出されるといっそう劇的に感じる。

 ダルデンヌ兄弟の作品は決して明快な説明をしてくれる作品ではない。そのため玄人好みの作品であることは間違いない。しかし、ちょっとした人物の表情の変化、一見すると唐突に映る行動等から、そのキャラの心中や、その後の展開を色々と想像させる大変骨のある作品ばかりである。彼らの作品は新作が作られるたびにカンヌで称賛を浴びているが、本作を見ればその理由が改めて分かろうというものだ。この「ロルナの祈り」は、彼らのフィルム・メーカとしての力量を再確認できる1本である。
[ 2011/12/27 02:20 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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