何でこうなる!?理屈無視のカルト作。反原発的なメッセージも‥。
「人魚伝説」(1984日)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) ある港町。新婚夫婦啓介とみぎわは、アワビ取りをしながら暮らしていた。ある日、啓介は網番に出ていた時に、釣り船がボートに追突されて大破するのを目撃する。ちょうどその頃、町ではレジャー施設建設の話が浮上しており、啓介はそれに反対する地元漁師に対する推進派の圧力ではないかと考えた。後日、啓介はみぎわを連れて事件現場に戻る。証拠品を得るために海に潜ったところを何者かに襲われる。
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(レビュー) 「人魚伝説」というタイトルから幻想的なファンタジー映画を想像したのだが、とんでもないスプラッタ・サスペンス映画だった。期待していたものとは違っていたが、これはこれで意外性と驚きに満ちていて面白い。
監督は日活ロマンポルノ出身の池田敏春。本作は各所に濃厚なセックスシーンが登場してくるが、彼の略歴を知るとそれも納得である。
例えば、前半にみぎわと祥平が延々と体位を変えながらセックスするシーンが出てくる。これはポルノ出身の監督でしか出せないエロスだろう。と同時に、これを1カットの長回しで捉えきった所に驚かされた。この生々しさは快楽に溺れる人間の〝性″というものを見事に捉えきっていると思う。池田監督は単にセックスを即物的な娯楽商品として捉えているわけではなく、欲望そのものを暴いて見せるもの‥と捉えているのであろう。
物語は正直、序盤は退屈した。啓介とみぎわ、祥平の関係説明に手こずる展開が冗漫に感じた。その後、意外な事件が起こり、ここからようやく面白く見れるようになる。言ってしまえば、実に「パルプ・フィクション」(1994米)的なのだが、こういう変態的なストーリーテリングは割と好きである。これ以後、物語はみぎわを中心としたサスペンス・ドラマへと切り替わっていく。
更に、中盤以降はガラリと作風が変わり、過激なバイオレンスが徐々に出始めてくるようになる。何と言っても、白い着物に白足袋という海女の格好をしたみぎわの戦い。これが大胆にフィーチャーされ、どこかフェティシズムが感じられる。「なぜ海女なの?」という突っ込みは当然のごとく出てくるのだが、実際に映像として見せられると言葉にならない奇妙な面白さを感じた。
そして、白眉は敵の総本山に乗り込んでいくクライマックスシーンである。客観的に見れば展開が強引であるし、映像やアクション演出も決して美しいわけではない。しかし、みぎわのアナーキーな怒りはこちら側にダイレクトに伝わってきて説得力は十分である。前述の「パルプ・フィクション」繋がりで言えば同監督作の「キル・ビル」(2003米)のクライマックス、あれを彷彿させる凄まじいアクション・シーンになっている。カメラワークに迫力を持たせようとした特異なロケーション選定も素晴らしい。
物語の顛末も良い。前段の壮絶なバイオレンス・シーンとのギャップが、海の静寂を一層切なく感動的に見せている。自分は何故だか目頭が熱くなってしまった。タイトルの意味もとくと理解できた。
全体として、シナリオ、演出に色々と綻びが見つかり、決して完成度が高い作品とは言い難い。
例えば、みぎわが殺人事件の話題で持ちきりになった村で潜伏出来るわけがないし、啓介殺しの真相を知った祥平のリアクションも弱すぎて不自然である。また、原発推進議員のパレードも珍妙過ぎる。しかし、こういった稚拙さを補って余りある魅力が本作にはあると思う。海女という特異で神秘的な存在、こちらの予想を遥かに上回るようなクライマックス。そこに魅了された。
尚、本作では反原発というメッセージも語られている。大都市と地方の格差を厳然と突きつけながら、社会派的な眼差しを忍ばせた点は注目に値するだろう。原発政策に対する作り手側の問題意識が伺える。
監督の池田敏春は一昨年末、59歳で永眠した。三重県志摩市の海上で死体で発見され、公式には自殺と発表されている。何故最後まで海に固執したのか?その真相は不明だが、港町を舞台とした本作を見ると、何だか監督の"念″がのり移っているような気がしてならない。