子供たちの日常が微笑ましく見れる。
「風の中の子供」(1937日)
ジャンル古典・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 小学生の兄弟・善太と三平は、近所の友達と川遊びや木登りをしながらすくすくと育っていた。ある日、友達からお前の父ちゃんは会社をクビになり警察に連れて行かれる‥と言われる。心配した二人はそれが原因で喧嘩になった。その後、三平は母の頼みで父の会社に弁当を持って行った。そこで見たのは父の落ち込んだ表情だった。父は従業員と何かを巡って対立していて、デスクに座って沈んでいたのである。そして、友達の言うとおり本当に父は警察に連れて行かれてしまった。一家の大黒柱を失った家族は困窮することになる。
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(レビュー) 幼い兄弟の一夏の出来事を牧歌的なタッチで綴った作品。
父の不在によって離れ離れになった兄弟の絆と成長を丁寧に描いた秀作である。彼らが抱える不安と孤独は、様々なシーンで表現されているが、中でも善太のかくれんぼのシーンが胸にジワリときた。いつも一緒にいる弟・三平が叔父の家に行ってしまったことによる孤独感。それに切なくさせられた。
物語は幼い兄弟の目線で描かれており、大人たちの事情は終始ぼかされている。父は何故警察に連れていかれたのか?そのあたりの事情も一切明確にされず、子供目線で展開される児童映画のような作りになっている。父の逮捕という事件にサスペンス的な匂い持たせつつ、果たして自分たちはこれからどうなってしまうのか?という葛藤にも踏み込んでおり、中々良くできたドラマだと思った。
本作の最大の魅力は何と言っても、子供たちの生き生きとした表情。これに尽きるだろう。些細なことで始まる兄弟喧嘩、川遊び、木登り、何気ない日常風景が微笑ましく切り取られている。そこで繰り広げられる子供たちの演技は実にナチュラルで、例えば父の会社に弁当を持って行った三郎がフックにかかった父の帽子を取ろうとしてジャンプするしぐさなどは実に愛らしい。こうした自然な表情、演技は今作の大きな魅力となっている。
後半から物語は叔父さんの家に預けられた三平のストーリーを中心にして展開される。父の逮捕というサスペンスは一旦舞台袖に置かれ、ここから徐々に彼の成長葛藤に迫っていくようになる。ホームシックにかかったり、悪戯をして怒られたり、他愛もない日常が延々と綴られるのだが、その一つ一つが三平の孤独の静かな集積となっている。そして、これらのエピソードがあることでラストは見事に感動的に締めくくられている。作劇が周到に構成されていることに唸らされた。
監督は清水宏。子供をうまく使うことに定評のある作家である。彼は戦前から活躍した日本映画界の重鎮であり、その功績は近年再評価されている。彼のことは田中絹代の半生を描いた
「映画女優」(1987日)に登場していたので名前だけは知っていたのだが、今回初めて作品を拝見した。ユーモアに溢れた作風はもちろんこと、子供たちのナチュラルな演技が素晴らしく、児童映画の巨匠と呼ばれる理由が何となく分かった気がする。
尚、三平と友達になる曲馬団の少年役として突貫小僧が登場してくる。小津作品ではお馴染みの子役で「大人の見る絵本生まれてはみたけれど」(1932日)や「出来ごころ」(1933日)で見たころに比べると随分と成長していた。おそらく中学生くらいだろう。全然分からずクレジットを見て初めて知った次第である。