SFオマージュが詰まった痛快コメディ。
「宇宙人ポール」(2010米)
ジャンルSF・ジャンルコメディ
(あらすじ) アメリカのコミックイベント「コミコン」にやって来たイギリス人のグレアムとクライブ。二人は共同でSF小説を執筆している、いわゆるヲタクである。イベントに参加後、二人はRVを借りてUFOの聖地巡りの旅に出かけた。そこで宇宙人ポールと出会う。ポールは謎の組織から命を狙われていた。キリスト教原理主義の父に縛られながら生きる孤独な女性ルースを巻き込んで、彼らは追跡者との間で大騒動を繰り広げていく。
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(レビュー) 数多のゾンビ映画をパロディ化した「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2004英)は中々良くできたゾンビ映画だと思う。‥というか、ロメロ版ゾンビ映画の正当な継承のように思えた。やはりゾンビは走ってはいけない‥。
今作はその「ショーン~」と同じ主演コンビで作られたSFコメディ映画である。今回のネタはズバリ、スピルバーグ映画。「未知との遭遇」(1977米)や「E.T.」(1982米)といった過去の作品に対するオマージュをふんだんに盛り込みながら、人間と宇宙人の友情を笑いと感動で綴ったエンタテインメント作品である。
シニカル・ギャグ、下ネタ、ブラック・ジョークが飛び交い、テイストは基本的に「ショーン~」と一緒である。主演の凸凹コンビ、S・ペックとN・フロストの珍騒動も板についてきた感があり終始楽しく見れた。「ショーン~」のE・ライト監督は今回はタッチしていないが、S・ペックとN・フロストが今回も脚本を担当しているので笑いのツボは一緒である。
そして、今回監督を務めたG・モットーラ。これが意外に演出力があることに感心させられた。何より過去のスピルバーグ作品をよく研究している。「JAWS/ジョーズ」(1975米)や「激突!」(1971米)で見せたカメラワークをそっくりそのまま流用しニヤリとさせられた。表面をなぞるだけのパロディ映画が多い中、ここまで本気度を見せてくれたことに嬉しくなった。むろんS・ペックとN・フロストが相当な映画ヲタクであることは疑いようのない事実だが、今回監督を務めたG・モットーラもかなりの映画ヲタクではないだろうか。
全編ギャグのオンパレードだが、キッチリ泣かせ所も用意されている。ラストも収まるところに収まるといった感じで特に意外性はないが、ドラマやキャラクター造形が丁寧に組み立てられているので気持ち良くカタルシスに乗ることができた。
ただ、ルースの父親とゾイルについては十分消化しきれていない感じを受けた。悪く言えば流れに任せてごまかしてしまった‥そんな感じを受ける。それ以外はストーリーは上手くまとめられている。伏線と回収が一々気が利いているところも良かった。
それにしても、肝心の宇宙人ポールのキャラクターだが、これが実にクールでファニーで愛すべきキャラになっている。マリファナを吸ったり、ピスタチオが好きだったり、スラングがバリバリだったり、すぐに屁をこいたりする。一言で言ってしまえば、アメリカ文化かぶれの俗物である。宇宙人=神秘といった既存のキャラクター性をぶち壊す〝人間臭さ”に奇妙なシンパシーも芽生えてくる。
そもそもこのポールは一体何を暗喩しているのだろうか?実は、この映画の中には〝エイリアン″という言葉が〝外国人″という意味で皮肉的に使われているシーンがある。それは前半のホテルのシーンだ。言葉の意味を巡ってピザ配達人である移民系青年とグレアム達の間で少々気まずい笑いがこぼれる。これは、人種の違いが誤解や争いを招く原因であることを端的に表したシーンだと思う。
かつてスピルバーグが「未知との遭遇」や「E.T.」で描いて見せた地球人とエイリアンの奇跡のコンタクトは、争いを繰り返す人類に対する一つのテーゼであった。崇高な友愛の光を提示して見せた所に作品の普遍性が宿り、いまだに輝きを失せない。そして、今回のポールとグレアム達の友情にも同様の友愛メッセージは感じられる。今作は荒唐無稽なコメディであるが、テーマ自体は案外バカにできない。〝エイリアン″の意味は、飛躍して考えれば〝隣人″にもなりうるのではないだろうか。少なくとも俺はそう捉えた。