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煙突の見える場所

しみじみとくる下町人情劇。ラストの煙突が印象に残る。
煙突の見える場所 [DVD]煙突の見える場所 [DVD]
(2005/09/22)
上原謙、田中絹代 他

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「煙突の見える場所」(1953日)星5
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
  東京下町の長屋。隆吉、弘子夫婦は小さな下宿で貧しい暮らしを送っていた。お互いにいつか子供を持ちたいと思っていたが、中々それが叶わずにいた。彼らの上の部屋には、役所勤めの健三と商店街のアナウンスをしている仙子が住んでいた。健三は仙子のことが好きだったが、彼女は全然相手にしてくれない。ある日、弘子は部屋に赤ん坊が捨てられていて驚く。一緒に添えられていた封筒には弘子と前夫の戸籍謄本が入っていた。隆吉はその赤ん坊が前夫との間にできた子だと思って憤慨する。必死に否定する弘子だったが信用してもらえず、彼女は一人で赤ん坊の面倒を見ることになる。
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(レビュー)
 捨てられた赤ん坊をを巡って繰り広げられる下町人情劇。

 本作のモチーフになっているのは通称〝お化け煙突″である。足立区にあった火力発電所の煙突で、見る角度によって本数が変わると言われている。今はもう取り壊されて無くなってしまったが、映画が作られた当時はまだ存在していた。この煙突はドラマの重要なアイテムとして度々登場してくる。見る角度によって人の心も色々と変わる‥そういうことを表しているのだろう。特に、ラスト・ショットの煙突が印象に残った。

 この物語には2組のカップルが登場してくる。一組は隆吉と弘子という中年夫婦、もう一組は健三と仙子という若いカップルである。彼らは突然現れた赤ん坊によって生活を掻き回されていくようになる。ラストは良心に満ちたエンディングを迎え感動的に締め括られている。少し啓蒙的な感じもしたが涙させられた。

 ただし、序盤の展開はやや散漫で、赤ん坊が登場するまでに難を感じた。病にかかった赤ん坊がたった一夜で快方に向かうというのもご都合主義と言えばご都合主義だし、実母の急な心変わりもやや説得力に欠ける。
 しかし、こういった物語上の不満はあるものの、ラストの幕引き、随所のコメディ場面における素朴な人々の愛には癒される。いつの世にもこうした人情はあって欲しい‥。見終わった後にそう思わずにいられなかった。

 脚本は黒澤映画でお馴染みの小国英雄。ベテランだけあって4人の心理の動きが無駄なく捉えられていて感心させられた。赤ん坊をどうすればいいかで彼らは衝突を始めるのだが、そこで繰り広げられる思考の食い違いは各キャラクターの性格をよく表している。

 まず、隆吉と弘子の思考の違い。隆吉はそんな赤ん坊を捨ててしまえと言って弘子を責めたてる。弘子はたとえ自分の赤ん坊でなくとも、以前から欲しかったという強い思いもあり次第に母性に目覚めていく。女の務め=子供を産んで家庭を守ること。男の務め=外で仕事をして家族を守ること。こうした男女の性差は、古い日本では当たり前のように考えられていたが、それを隆吉と弘子の夫婦関係に見ることが出来る。

 また、隆吉と弘子、健三と仙子、この二組のカップルは丁度ふた回りくらいの年齢差であろうか。世代による思考の食い違いも見られる。
 例えば、後半のドラマの大きなポイントとなる「正義」に対する考え方は、隆吉と健三では異なる。年齢の高い隆吉はどうしても保守的になってしまい、若い隆吉のように「正義」を純粋に振りかざすことが出来ない。
 同様のジェネレーション・ギャップは女性陣についても言える。古風な弘子と現代ッ子な仙子。二人の母性の違いが各所に見られる。また、後半に入ってくると仙子の〝ある過去"が判明し、それによって彼女の思考が他には無い特別なものになり、二人の母性の違いに微妙な影響を及ぼしていくようになる。これも面白い。
 このように4人の思考の食い違いは終始興味深く見ることが出来た。また、こうした衝突がドラマを予想不能な方向へ転がしていくのも上手いやり方だ。巧みなキャラクター造形共々、小国英雄の手練には感心させられる。

 尚、長屋には彼ら以外にも様々な人々が住んでいる。子だくさんな一家、宗教にのめりこむ一家等、こちらは主にコメディリリーフとしての役割を持たされており、映画を更に味わい深くするという意味では無くてはならない存在となっている。たとえば、赤ん坊の泣き声を聞いた時の夫々のリアクションなどは実に面白い。

 ちなみに、本作で最も可笑しかったのは、赤ん坊の父親探しに奔走する健三とパチンコの景品をどっさり抱えた隆吉がバッタリ出会うシーンだった。健三の人の良さと隆吉の日和見な性格がよく出ていてクスリとさせられた。

 キャストでは弘子を演じた田中絹代の好演が光っていた。古風な佇まいをした女優だけに今回の役は適役と言う感じがした。夫に隠れて競輪所でアルバイトをしたり、身を粉にして赤ん坊を世話をする姿など、その賢母振りに弘子の芯の強さが伺える。また、珍しく表情をコロコロと変化させ、他の作品では余りお目にかかれない表情を見せている。新たな魅力を発見することが出来た。
[ 2012/02/06 02:40 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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