様々な人間模様を見せてくれるオムニバス作品。
「にごりえ」(1953日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 第1話「十三夜」。おせきは嫁ぎ先の暮らしが嫌になり実家に戻ってきた。しかし、父に諭されて戻ることになり‥。
第2話「大つごもり」。資産家の家に奉公している〝おみね″は、病に倒れ借金に苦しむ叔父夫妻の頼みで給料を前借りしようとする。そこに資産家の放蕩息子が帰ってきて‥。
第3話「にごりえ」。小料理屋の看板娘・お力は源という男に付きまとわれていた。源は元商売人だったが、今やすっかり落ちぶれて妻子と貧しい暮らしを送っている。そんなある夜、お力の前に切符の良い客・朝之助が現れる。
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(レビュー) 樋口一葉の原作を名匠今井正が監督した作品。全3話のオムニバス作品で、不幸に喘ぐ女達の人生が彩り豊かに描かれている。
第1話は、父親と娘・おせきの会話劇を中心とした作品である。嫁ぎ先から帰ってきた娘を説得して戻そうとするのだが、この時の父親の言が家長としての威厳と娘を不憫に思う優しさが入り混じり味わい深い。その後のおせきと人力車夫の偶然の再会は出来すぎな感じがして今一つだったが、彼女が決心を固める“きっかけ”としては中々味のある演出に思えた。
第2話は少しだけほっとさせるオチになっていて他の二作品とは少し違うテイストになっている。資産家の放蕩息子が見せるかすかな優しさにしみじみとさせられた。全てを語らない演出も良い。また、引き出しの中に入った金が気になり仕事が手につかない〝おみね″の心理表現も技巧的なカメラワークによってサスペンスフルに演出されている。正に技ありという感じがした。
第3話が本作のメインのエピソードとなる。一体どういう顛末が待ち受けているのか?興味深く見ることが出来たが、このラストは余りにも衝撃的だった。報われぬ愛に沈み込んでしまった男女の末路として実にいたたまれない。途中で挿入されるお力の回想シーンが、この顛末をドラマチックに見せるのに上手く効いていると思った。お力を演じた淡島千景、源の妻を演じた杉村春子の演技も抜群である。
3話を比較すると最も完成度が高いのは、やはりメインのエピソードとなる第3話「にごりえ」になる。しかし、話でいけば第2話の「大つごもり」が最も好みであった。個人的には2話>3話>1話の順で楽しめた。