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恍惚の人

老人介護を扱った社会派人間ドラマ。
恍惚の人 [DVD]恍惚の人 [DVD]
(2005/10/28)
森繁久彌、高峰秀子 他

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「恍惚の人」(1973日)星5
ジャンル人間ドラマ・ジャンル社会派
(あらすじ)
 84歳の茂造は妻に先立たれたショックでボケが進行する。嫁の昭子が面倒を見ることになったが、茂造は外を徘徊したり、ついさっき食事したことを忘れたり、症状が悪化する一方だった。次第に昭子は、仕事と家事と介護で心労が積み重なっていく。こうして茂造は老人ホームに預けられることになった。ところが、入って早々、入居者とトラブルを起こし出ることになってしまう。今度は福祉士に相談した。茂造の場合は老人性鬱病で精神病院に入院させるしかないと言われる。仕方なく昭子は、自分の留守中の面倒を見てもらうために介護アルバイトを住み込みで雇うことにする。
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(レビュー)
 認知症の義父の介護に苦闘する主婦の姿を描いた社会派人間ドラマ。

 昨今急激に叫ばれるようになった高齢化問題だが、この映画が製作された当時はまだそれほど広く一般には浸透していなかったように思う。第一、この頃日本は第2次ベビーブーム真っ盛りである。まさか近い将来、国民一人が高齢者一人を支える時代がやってこようとは夢にも思ってなかっただろう。そういう意味では、本作は実に先見性の高い作品だと思う。

 今でこそ介護保険制度が発足し高齢者の健康は一定水準保障されているが、当時はまだ茂造のような認知症患者に対する社会的ケアは十分ではなかった。したがって、周囲にいる家族が面倒を見なければならなくなる。しかし、いくら家族とはいえ付きっきりで面倒をみるというわけには中々いかない。それぞれに仕事もあれば家事もある。プライベートな時間だって時には必要だろう。結局、互いに協力し合いながらこの難局を乗り超えていくしかない。

 このドラマの不幸は、昭子が茂造の介護を一身に背負ってしまった所にある。夫は仕事一辺倒で、息子はまだ遊びたい盛りの学生。結局、茂造の世話をするのは昭子しかいないのである。改めて本作を見ると、これは本当に辛い仕事だなぁ‥と思わずにいられなかった。

 本作は扱うテーマがテーマだけに、極めてシリアスのように思えるかもしれない。確かにそういう面はある。しかし、一方で所々にとぼけたユーモアも配されていて、特に前半は笑いを含ませた演出があちこちに見られて肩の力を抜いて見ることが出来た。

 その一番の功労は茂造を演じた森茂久彌のオフビートな演技である。認知症の老人は意識なしに暴威を振るうものである。それをそのまま演じてしまえばただ単に嫌なキャラになってしまうが、そこを森繁はとぼけた喋り方と愛らしい所作で演じて見せている。
 例えば、庭で小便するときに月を見上げて「きれいだな‥」と呟くシーンがある。頭はぼけていても人としての感情はしっかり持っているのだ‥ということが分かり何だか愛しく見えてしまう。

 また、昭子を演じた高峰秀子も素晴らしい演技を見せている。普通に演じてしまえば意地悪な嫁に写りかねないが、彼女はかすかな優しさを滲ませながらこの難役を好演している。
 例えば、夜中に何度も茂造に起されるシーンがある。ここでの彼女の怒りの裏側には「仕方がないわね‥」というツンデレ・ニュアンスがかすかに確認できると共に、ここまでの根気強さを見せられるとある種の母性も感じさせる。この母性は「人は老いると皆赤ん坊に戻るのよ」と言う彼女のセリフからも伺える。憎まれ口を叩きながらも、昭子は大らかな愛で茂造を包み込んでいるのである。

 後半に入ってくると、ドラマは次第にシリアス色が強められていく。テーマの引き締めにかかるという意味では、このあたりは上手く展開されていると思った。ズシリとした重い鑑賞感を残すラストも、テーマを真摯に訴えている。

 ところで、このラストの「もしもし」という昭子の呼びかけだが、これは一体何を意味するものだろう?今まで家族の協力を得られなかった彼女の空しい心の声という解釈も出来る。しかし、一方で本作を見た我々全員に対する呼びかけのようにも聞こえた。
 老いという問題は周囲の家族の協力が無ければ乗り越えられない難しい問題だと思う。「もしもし」というセリフは、あなたの周りに「もしもし」という言葉に応えてくれる人はいますか?という問いかけのように聞こえた。家族の在り方そのものを考えさせられるラストである。

 尚、高齢化社会に鋭く切り込んだ作品で、吉田喜重監督の「人間の約束」(1986日)という作品がある。本作を見てそれを思い出した。こちらは老人が老人の介護をするという、正に現代に直結するようなテーマが語られている。その劇中に「恍惚の人」からの引用とも思えるセリフが登場してくる。孫が認知症の祖母を指してこう言い放つのだ。

「もう人間ではない動物だ。動物園と同じように施設に閉じ込めて社会が管理すればいい。」

そして、本作では孫の敏が茂造を指してこう言う。

「人間じゃない動物だ」

どちらのセリフも実に無慈悲なセリフである。
しかし、いざ自分が介護する立場に立たされたら‥と思うと複雑な思いにさせられてしまう。

 ここで描かれている問題は時代が移り変わっても基本的には無くならない問題である。そして、最終的には一番身近な家族がどう解決していくか‥という所にかかってくるように思う。この映画が訴えていることは実に普遍的である。高齢化の波が押し寄せる今こそ本作は見直されるべき作品ではないだろうか。
[ 2012/02/24 01:50 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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