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原子力戦争 Lost Love

田原総一郎の原作を名匠・黒木和雄が映像化した社会派サスペンス作品。福島原発のアポなし撮影が生々しい。
原子力戦争 Lost Love [DVD]原子力戦争 Lost Love [DVD]
(2011/12/07)
原田芳雄、山口小夜子 他

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「原子力戦争 Lost Love」(1978日)星3
ジャンル社会派・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 やくざな男・坂田は失踪した恋人・望を追って、彼女の実家がある東北の港町にやってきた。望の実家は地元では有名な旧家で父と兄は町の権力者だった。醜聞を嫌った彼らに坂田は門前払いを食らう。その後、地元の新聞記者・野上と出会い、坂田は望が心中したと聞かされる。相手は原子力施設で働いていた技師だった。早速、坂田はその妻に会いに行くのだが‥。
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(レビュー)
 恋人を探しにやってきた男が、原子力村の隠された秘密に迫っていく社会派サスペンス作品。

 製作された当時は国も地方地自体も原発推進に邁進していたころであり、ここで描かれているような原発の危険性については、おそらく多くの人はそれほど身近なものとして受け止めていなかったのではないだろうか。今改めて見てみると当時の鈍感な空気感には驚かされる。しかし、そう思うのは3.11の事故があったからで、現実にはやはりこの映画が示すように原発神話を鵜呑みにする風潮は確実にあったのだと思う。

 同時代に製作された作品と比較してみると、今作がいかに先見性を持った作品かが分かってくる。自作の原爆で日本中を恐怖に陥れた青年のアナーキーな青春を描いた「太陽を盗んだ男」(1979日)が製作されたのは翌年。その年にスリーマイル島原子力発電所の事故が起こり、それを予見するかのようにアメリカでは「チャイナ・シンドロ-ム」(1979米)が製作された。本作はそれに先駆けて作られた作品である。原発の恐ろしさをいち早く警鐘した問題作と言えよう。

 監督は黒木和雄。後に〝戦争レクイエム三部作”を撮ることになるが、「父と暮らせば」(2004日)で広島被爆を、「TOMORROW 明日」(1988日)で長崎被爆の悲劇を描いている。晩年、戦争の無情を頑なに訴えかけた名匠のライフワークは、原発に対する恐怖を描いたここに始まるような気がする。

 ただ、意欲作であることは認めるが、実際に見てみるとドラマ自体は精彩に欠く。基本的には、失踪した恋人を探す坂田が原発事故の隠ぺい工作に巻き込まれていく‥という社会派サスペンス劇になっているのだが、どう考えてもリアリティに欠く事象が多すぎて困惑させられる。
 例えば、原子力施設の技師・山崎の妻は、普通に考えればこの隠ぺい工作の中心に存在する人物である。にも関わらず、平然と日常生活を営んでいられるのは何故か?また、原発労組の小林の顛末も、いかにも事件性を匂わす手の込んだ仕掛けでわざとらしく思えてしまった。現実にはもっと目立たない方法で仕掛けを張り巡らすのではないだろうか。
 こうしたリアリティに欠く部分がドラマの説得力を失わせてしまっている。細かなところを無視したアクション先導型のエンタメ作品なら、ある程度の割り切りの上で見れるのだが、本作はそのサービスも乏しい。中途半端な見せ場で終わってしまっている。

 原作は田原総一郎の同名小説である。どこまで脚色されているのか分からないが、彼の原発に対する問題提起は各所から見て取れた。特に、岡田英次扮する大学教授と佐藤慶扮する記者のやり取りから、彼の原発安全神話に対する批判がストレートに伝わってきた。

 また、福島原発のアポなしゲリラ撮影は、本編そのものよりもずっとスリリングで面白く見れた。余りにも生々し過ぎて全体のトーンから完全に浮いてしまっているのだが、坂田を演じた原田芳雄が正面から堂々と突入していく無鉄砲さには、ある種ノンフィクションのようなピリピリとした緊迫感が感じられた。考えてみれば、原作者の田原総一郎は、かつて過激なドキュメンタリー映像を撮っていたディレクターだった。その精神が何となくこのシーンには反映されているような気がした。
[ 2012/03/29 01:16 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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