田原総一郎唯一の監督作品。アナーキーな青春ロードムービー。桃井かおりの映画初主演作でもある。
「あらかじめ失われた恋人たち」(1971日)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 強盗を繰り返しながら宛もなく放浪する青年・哮が日本海の港町に辿り着いた。バスに乗り合わせた夫婦を襲って金を奪うと、その金で商店街で買い物をした。そこで欲求不満の主婦に強引に迫られ強姦未遂の罪で逮捕される。翌日、釈放された哮は新装開店の店先で全身に金粉を塗ってパフォーマンスをする若いカップルを見かける。気になって後を追いかけてみると、二人が聾唖者だったことを知る。哮は彼らと一緒に旅をすることになるのだが‥。
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(レビュー) 無目的に生きる青年・哮と聾唖のカップルの旅を描いた青春映画。
監督・脚本は清水邦夫と田原総一郎の共同。出演は石橋蓮司、桃井かおり、加納典明。一部に映画とは畑違いの顔ぶれが揃うが、作品自体はアナーキーな作りで中々面白く見れた。
まず、哮を演じた石橋蓮司のユーモラスな演技が良い。良くも悪くも彼のオーバーアクトが映画を一瞬たりとも飽きさせないものにしている。哮はノンポリのフーテンで誰にでも食って掛かる無鉄砲な青年である。そのおかげで彼の周囲には常にトラブルが絶えない。この自由人気質、怖いもの知らずなアウトロー然とした魅力に引き付けられる。アフロヘアーに付け髭、白ブリーフ一丁姿には笑えた。
一方、彼と一緒に旅をするのが、全身に金粉を塗ってパーフォーマンスをする聾唖の若いカップルである。こちらは桃井かおりと加納典明が演じている。彼等もまた哮と同様に、社会との間に大きな壁を作りながら放浪を続けるアウトロー達である。聾唖というハンデを抱える者同士、互いに深い愛で結ばれている。煩いくらいに喋る哮とは反対に、彼らは沈黙する者たちである。このキャラクターバランスもちょうどいい。
物語は3人のロードムービーで展開されていく。
男二人女一人という関係は、トリュフォーの「突然炎のごとく」(1961仏)然り、友情と恋愛が絡み合う絶妙なトライアングルが形成されている。哮は加納と友情で結ばれる一方で、桃井をいつかモノにしてやろうと虎視眈々と狙っている。そこに一触即発の不穏なエネルギー、スリリングさが生じる。そして、この三角関係が急転するのが前半のレイプシーンである。桃井が村の若衆に拉致されて強姦されるのだが、それをどうすることも出来なかった加納との間に愛が消えかけてしまう。そこに哮が割って入り3人の旅に徐々に暗雲が立ち込めていくようになる。
極めつけは後半の洗濯のシーンだろう。ここは加納に対する友情、桃井に対する恋情、二つに引き裂かれる哮の思いが切ないまでに吐露されている。果たして彼は二人が残していった洗濯物の残り香をどんな思いで嗅いだのだろうか‥。
ところで、哮が何故二人に惹かれていったのか?そこを考えてみるのも面白い。
映画前半、彼は強姦未遂の冤罪で留置所に入れられてしまう。翌朝すぐに釈放されると、その足で大通りに出て演説をぶちまける。一家水入らずな家庭などクソ食らえ、没個性にしてしまう社会など壊しちまえ!と熱弁を振るう。しかし、その叫びは通りの人々から無視される。後半のアメリカ軍の工場での熱弁も然り。哮は常に社会や家庭に対する疑念、反発を声高らかに叫ぶが、それらは尽く無視されるのだ。このことを考えれば、彼が聾唖者である二人と一緒にいるのも理解できる。耳の聞こえない彼等に対してなら、哮は何を訴えても情けない喪失感を味わうことはない。だから一緒に旅をしているのだ。
至る所で繰り広げられる哮の演説には、監督・脚本を務めた田原総一郎の思想がかなり反映されているような気がした。しかし、後で調べて分かったが、
wikiによれば撮影現場では田原はほとんど労を割いていなかったと書かれており、共同監督である清水も実際にはリハーサルを務めだけで、実質的には助監督がメガホンを取ったということである。おそらく脚本までは携わっていたのだろうが、実際の演出は彼がしてるかどうかは怪しい。その後、彼は映画を撮っていないわけで、演出は自分には無理だと考えたのだろう。
ただ、田原が多くのドキュメンタリー番組を手がけてきたディレクターであったことを考えると、彼の案が反映されているのではないか‥と思えるシーンは幾つかあるように思う。例えば、一般人をエキストラとして登場させてドラマとは無関係にインタビューをするシーンが何度か登場してくる。現実と虚構が混濁した不思議なテイストに何とも言えぬ面白さを感じたが、このあたりはもしかしたら彼が撮影したのかもしれない。
一方で、どうしても理解の範疇を超える演出も見られた。例えば、白ふんどし一丁の男たちの公開リンチ、パトカーの中でおもむろにカーセックスに興じるシーン、このあたりは単にふざけてやっているのか、何かのメッセージを込めてやっているのか?よく分からなかった。
映像は各所に魅力的なショットが見つかる。虚無的で開放感に満ちた無人の海を捉えた映像が頻繁に登場してくるが、これは社会から逃避し続ける3人の安住の地と称することも可能である。寓話的でドラマチックな雰囲気を醸していて良かった。
キャストでは先述の通り嬉々とした石橋の狂演が印象に残ったが、初主演となる桃井かおりの身体を張った演技も中々のインパクトを残す。左の乳首だけ陥没しているのは狙って撮っているのだろうか?身も蓋もない言い方になるが、実に下世話な見せ物である。加納典明は鋭い眼光に宿る欲情に見応えが感じられたが、セリフがない上に演技らしい演技もほとんどないため評価のしようがない。