現実世界と小説世界を行き来するファンタジー・コメディ。
「主人公は僕だった」(2006米)
ジャンルファンタジー・ジャンルサスペンス・ジャンルコメディ
(あらすじ) 国税庁の職員ハロルドは、毎日決まった時間に決まった行動をする規則正しい生活を送っていた。ある日、どこからともなく謎の女の声が聞こえてきた。その声はハロルドの行動を一々説明し、やがて彼が死ぬだろうと宣告した。ハロルドは高名な大学教授ヒルバートのカウンセリングを受けることにした。一方、女流ベストセラー作家アイフルは新作の主人公をどうやって殺すかで悩んでいた。
楽天レンタルで「主人公は僕だった」を借りようgoo映画映画生活ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 小説の主人公が作家の気まぐれによって運命を左右されていくファンタジー・コメディ。
こうした箱庭的な作品は割と好きなのだが、オチは結局そのまんま‥。少々肩透かしを食らった気分である。こういうオチにするのなら、せめて何らかの説明は必要だったのではないだろうか。論理的な説明など別に求めているわけではないが、これでは釈然としない。現実と小説の境目がどこにあるのか?最低限そこだけは描いてくれないと何でもありな世界に見えてしまい、一体何のための設定だったのか?という不満に繋がってしまう。あるいは、最初からシュールなファンタジーと決め込んで作られていればそれでもいいのだが、本作は明らかに現実と小説の世界が別個に存在しているので決してシュールな混濁した世界観ではない。
監督はM・フォスター。以前紹介した
「ステイ」(2005米)もこうした不思議なテイストが漂う作品であった。本作でも所々にCGを駆使しながら日常の中の非日常を幻想的なタッチで描いている。
特に、今回は映像色彩が面白い。スランプに陥る作家アイフルを描くパートは寒色トーンで統一され、他のシーンとの差別化が図られている。彼女の孤独感を映す意味と、ここは現実の世界であるということをはっきりと観客に認識させるための差別化だろう。狙いとしては一定の成功を果たしていると思った。
ただ、どちらかと言うと基本的にはリアリティに寄せた画作りになっており、映像面の凝り具合は「ステイ」ほどではない。その前作「ネバーランド」(2004米)のトーンに戻ったという感じがした。
キャストは全員コメディ・アプローチに徹しており、シリアスなテーマながらそれほど深刻にならずに見れるようになっている。D・ホフマン、E・トンプソンといった硬軟自在なベテランが脇を固めているので安定感がある。但し、E・トンプソンの精神薄弱振りはやや大仰に映ったが‥。
尚、ハロルドと恋仲になるベーカリーの女主人アナ、アイフルのアシスタント、ペニーといったサブキャラに関しては、存在感が薄みで物足りなかった。ハロルド、アイフル、夫々の近隣に位置するキャラだけに、もっとドラマを動かすような活躍があっても良かったように思う。この描き方は勿体なかった。
特に、アナに関しては大いに不満が残った。彼女は後半に入ってくると何でも簡単に受け入れてしまう、物分りのいい女性になってしまう。ハロルドにとって良き理解者であらねばならぬというのは分かるが、序盤で見せた自己主張の強いイメージが後半に行くにつれてどんどん損なわれてしまい、何だか面白味の無いキャラクターになってしまった。ハロルドが憧れる対象(ヒロイン)として、もう一押し彼女を使った展開が欲しかった気がする。
もっとも、本作で最もしみじみとさせられたのは、そのアナがクッキーを焼くことになった逸話なのだが‥。この物語ではハロルドとアナのラブロマンスというサブストーリーも展開されている。そこを盛り上げるべく、彼女のこうした心情吐露はもっと積極的に掬い上げて欲しかった。