劇場未公開・未DVD化作品。T・スウィントンは頑張っているが‥。
「ディープ・エンド」(2001米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 静かな湖畔に建つ1件の家。そこに主婦マーガレットは海軍に勤める夫と3人の子供たち、父親と暮らしていた。夫は仕事で留守がちで、彼女一人が家族の面倒 を見ていた。目下の悩みは長男ボウの夜遊びである。音大進学を目指し日々レッスンに励むボウは、ナイトクラブに入り浸りそこのオーナー、 ダービーと同性愛の関係にあったのだ。ある夜、ダービーがボウを訪ねてきた。マーガレットに注意されて気が立っていたボウは、ダービーと喧嘩をしてしまう。 翌朝、マーガレットは桟橋でダービーの死体を見つける。ボウが殺したと思った彼女はそれを隠蔽しようとするのだが‥。
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(レビュー) 息子の殺人事件を隠そうとする主婦の戦いをスリリングに描いたサスペンス・ドラマ。
今作はマーガレットを演じたT・スウィントンの演技。これに尽きると思う。シリアスな表情を滲ませながら子を思う母親としての葛藤を痛々しく表現している。やや1本調子という感じもするが、彼女の重厚な演技は作品のクオリティを底上げていると思う。
ただ、いかんせん演出、シナリオに関しては、お世辞にも上手く出来てるとは言い難い。
まずサスペンスとしての緊張感が余り感じられなかった。マーガレットは殺人を隠蔽しようとして、見ず知らずの男アレックから脅迫を受けるようになる。追い詰められていく彼女の心情はT・スウィントンの好演でそれなりに伝わってくるのだが、絶体絶命という危機感までには及ばない。
原因の一つは悪役サイドの描き方にあると思う。アレックは初めはいかにも悪者という感じで登場する。その後、中盤になって意外な顔を見せる。ここまでは良かったと思う。問題はそこからで、彼のバックに黒幕が登場して以降だ。これがいただけなかった。アレックはなぜこの黒幕に雇われているのか?なぜ反抗できないの か?そもそも、黒幕の動機が不明なままである。要するに、悪役としての明確なコンステレーションがはかられていないのだ。これでは盛り上がりようがない。
たとえば、ここはアレックが黒幕の言葉に敢然と抵抗したり、マーガレットを積極的に援護する側に回ったりすることで、悪人は悪人でも深みのある悪人にすることで、マーガレットの葛藤に更なる追い込みを演出するようなことでもあれば、もっと面白く見れたであろう。
シチュエーションのマンネリズムも緊張感を失している。
本作はFox Searchlightが製作・配給した作品である。この会社は20世紀Foxの子会社で主にインディペンド系の作品を作っている会社である。したがって、予算や人材といった製作体制が小規模なのは仕方がないことである。しかし、いくら限界はあるにせよこれでは地味すぎるだろう。そこは展開の工夫でカバーして欲しい。
シナリオでは、事件の鍵を握るボウの心情説明を途中から放棄してしまった所に不備を感じた。また、マーガレットの父親、ボウ以外の二人の子供達の存在も、随分とおざなりになっている。父親は何かしら事件に関与してくるのかと思いきや、結局心臓発作で倒れただけである。これはドラマに何の意味も持たない事件である。二人の子供たちにいたっては、ほぼ存在意義すら認められない。警察捜査の描写も随分と気の抜けたものである。
このように細かい点を言えば切りが無いが、他にも幾つか突っ込みを入れたくなるシーンがあった。
T・スウィントンの頑張りもこれでは虚しいだけである。