感性が試される怪作?笑いながら徐々に恐ろしくなっていくナンセンス・ホラーの決定版。
「ザ・チャイルド」(1975スペイン)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 生物学者トムは身重の妻エビーを連れて海辺のリゾート地にやってきた。来て早々、海岸で女性の変死体が上がり町は騒然となる。トム達は不安に駆られながら予定していた観光小島へボートで乗り付けた。しかし、不思議なことに島は閑散としていた。そこに一人の少女が現れる。彼女はエビーの大きなお腹をさすってどこかへ消えてしまった。その後、トムは血まみにれなった老人の死体を発見する。
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(レビュー) 冒頭で戦争の被害にあう子供たちの映像が次々と出てくる。おそらくこれが本作のモチーフなのだろう。飢えで死んでいく子供たち。親を失った子供たち。そうした子供たちを延々と見せながら本作は血の惨劇を繰り出してくる。これを戦争に対する<復讐>と言わずして何と言おううか。作品のモチーフというものは案外蔑ろにされがちで、作り手側もひけらかすのを嫌うものであるが、こと本作に関して言えばそれを軽んじることが出来ないように思う。
物語は、前半はやや水っぽくて退屈するが、中盤以降はサスペンス色が強められ面白くなっていく。
トムとエビーが訪ねた島には子供しかいない。一体どうして?という謎を孕みながら展開されていく。そして、映画はその答えを安易には提示してくれない。ここが本作の心憎い所である。
大人と子供の従属関係、冒頭で映し出される戦災に喘ぐ子供たちの姿を鑑みれば事件の原因は一定の理由が考えられる。ただ、それだけで事件の全貌が解明されかというとそうではない。戦争に対するアイロニーも嗅ぎ取れるのだが、それを以ってしても事件の原因は説明がつかない。ここが本作の恐ろしくも興味をそそられる部分である。
ただ、これだけは言えると思う。「子はかすがい」という言葉があるが、子供=純粋無垢と考えるのは単なる大人の一方的な見方でしかなく、彼らは大人が考えるよりもずっと知恵が働き、狡猾で残忍な生き物だ‥ということだ。
本作は基本的にホラー映画であるが、子供たちの残忍さの裏側に明確な理由が提示されていないため、見ようによってはナンセンス・ブラック・コメディのように捉えることも可能である。
近い設定では「未知空間の恐怖 光る眼」(1960米)や、そのリメイク作「光る眼」(1995米)が思い出されるが、子供やペット等身近なものがある日突然意味不明に殺人鬼に豹変するというというのはホラー映画における一つのパターンである。この意外性は怖さを生む一方で、少し見方を変えればナンセンス・コメディのようにも映る。ホラーとコメディが相性がいいのはこうした理由からで、それは数多のホラー・コメディが証明して見せてくれている。怖さと笑いは実は表裏一体である。見ようによっては今作は毒を含んだ喜劇‥と捉えることも可能だ。