ドラマチックな大河ドラマ。女性の幸せを問うたテーマは見応えあり。
「チベットの女/イシの生涯」(2000中国)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) チベットに住む年老いた夫婦イシとギャツォは慎ましくも幸せな暮らしを送っていた。ある日、ギャツォが病に倒れて入院する。そこに北京に住んでいた孫娘ダワが大学の卒業論文執筆のためにやって来た。彼女はイシからギャツォと歩んだ過去を聞かされる。1950年、農夫の娘イシは美しい歌声を持っていることから領主の長男クンサンの寵愛を受けていた。ある日、村に行商人のギャツォがやって来る。彼はイシに一目ぼれし強引に関係を持ち夫婦となった。しかし、夫婦になった途端にギャツォは酒と博打に溺れイシは苦労するようになる。
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(レビュー) 数奇な運命を辿る男女の半生を雄大なチベットの大自然の中に描いた女性ドラマ。
オール・チベットロケ、チベットのキャストとチベット語で撮られた珍しい作品である。チベットの風俗、社会が出てくるので観光映画的な楽しみ方が出来た。ちなみに、途中で出てくる居酒屋(?)みたいな場所は不思議な空間だった。民族衣装を着た女性達がステージ上で踊りながら、客たちはそれを見て酒を飲んでいる。しかも、ビールのグラスがやたらと小さいのだが、チベット人はいつもあのようなグラスでビールを飲んでいるのだろうか?
物語はイシとギャツォの大恋愛を描く過去編と、その話をイシから聞かされる孫娘ダワの物語を描く現代編で構成されている。
過去編は、イシと男たちの出会いと別れを描きながら、虐げられてきた女性の生涯がダイナミックに綴られている。女の幸せとは?というテーマが軽んじることなく真摯に発せられており好感が持てた。ただし、構成面で少しスッキリしない箇所が幾つか見られる。イシの幼年期と成人期が交錯する作りになっているのだが、このあたりの構成はもう少し整理して描いて欲しかった。ドラマを混乱させるほどではないが、成人したサムチュとの再会など、少し唐突に写る場面があった。
一方、現代編は病床に伏すギャツォとイシの愛を静かに描きながら、そこに孫娘ダワの物語が加わってくる。ドラマチックな過去編とのコントラストを効かせながら、ノスタルジックな風情を忍ばているのが特徴的でしみじみとさせられた。ここでの主役はダワの方で、イシとギャツォが辿った半生を聞かされた彼女は自らの幸せについて考えるようになっていく。実は、彼女も人に言えぬ苦悩を抱えていて、この現代編はそれを解決していくドラマとなっている。
過去編、現代編、夫々に面白く見ることが出来た。ただ、惜しむらくは、イシの過去とダワのこの苦悩がリンクされなまま終わってしまったことである。これは非常に残念に思った。といのも、女の幸せというテーマの下、この二つは合わせ鏡のように配されている。当然、最後は過去と現在が一つにまとまって大団円に持って行くのかと思ったのだが、実際にはそうらない。イシの過去が現在のダワの苦悩の救いに寄与しないまま終わってしまうのである。これではわざわざダワに苦悩を持たせた意味がよく分からなくなってしまう。女性の幸せというテーマも中途半端で何だか肩透かしを食らった気分になった。
演出は概ね安定しているが、幾つかの綻びは気になった。例えば、ギッツォの最期のシーンで、明らかに彼の瞼が動いているのはまずかろう。また、イシとサムチュの2度目の再会シーンも若干軽すぎる。せめてカットの切り替えしながら、互いの感情を高め合うくらいのタメを作って欲しかった。ドラマチックな演出が欲しいところである。各所の不用意なズームアップも不自然極まりなく余り意味がない。
キャストはチベットの俳優で馴染のない者ばかりだったが、皆自然に演じていると思った。特に、イシを演じた女性の味わい深い演技が抜群に良かった。