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紀ノ川

旧家に嫁いだ女の壮絶な一生を描いたドラマ。
紀ノ川 [DVD]紀ノ川 [DVD]
(2006/04/27)
岩下志麻、司葉子 他

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「紀ノ川」(1966日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 明治32年、紀州の旧家・真谷家に嫁いだ花は、村長である夫・敬策を支えながら貞淑な妻に収まっていた。近くには紀ノ川が流れており、毎年夏になると川が氾濫し周囲の農作物に甚大な被害をもたらしていた。花は敬策に水防工事の建設を提言する。これが成功し敬策は出世を果たし市議会議員に立候補することになった。一方、敬策の弟・耕策は兄と違って不出来な放蕩者だった。日露戦争で徴兵されるのが嫌で彼は敬策に分家を求めた。結局、彼は真谷家が所有する山を全て自分のものにして家を出て行った。やがて花は長女・文緒を出産する。それから10数年後、高校生になった文緒は学生運動にのめり込むようになる。文緒は支配する側である父や古いしきたりを重んじる母と対立していくようになる。
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(レビュー)
 明治、大正、昭和を力強く生きた女性の一生を壮大なスケールで描いた大河ドラマ。

 約3時間近くの大作ながら、軽快なドラマ運び、美しいカメラ、俳優たちの好演で最後まで飽きなく堪能できた。

 まずは花を演じた司葉子の好演。これを最も高く評価したい。世間知らずな娘時代から、良妻賢母を貫く女ざかり、先進的な娘・文緒と対立していく中年時代、穏やかに死を待つ晩年時代。女の一生を見事に演じきっている。この圧倒的な存在感は素晴らしいの一言だ。

 ただ、彼女に比べると他のキャストは幾分大仰で臭く映ってしまう。敬策を演じた田村高廣は軽妙過ぎるし、耕策を演じた丹波哲郎はいつもの丹波哲郎である。文緒を演じた岩下志麻は確かに健闘しているが、泣きの演技があざと過ぎて少し嫌らしい。
 もっとも、丹波に関しては全面的に悪いというわけではない。晩年の演技には良いものも見つかった。土産を持って花を訪ねるシーンは中々味わい深い演技を見せている。長年対立してきた二人がここでようやく分かりあえた‥という気がしてしみじみとさせられた。

 軽快に進むドラマはダイジェスト風な作りだが、花の波乱に満ちた人生はしっかりと描きこまれている。日本近代史と関連付けながら展開されているので、当時の人々がいかに大変な思いをして生きていたのかもよく理解できた。

 そして、川を<人生>に見立てたテーマも噛みしめたくなるような味わいを持っている。
 今作の舞台である紀州の山々に流れる紀ノ川は、周辺の土地を治める旧家・真谷家の象徴と言えるだろう。紀ノ川は台風の季節になると氾濫し周囲の田畑に甚大な被害をもたらす。しかし、同時に田畑を生かす貴重な水源にもなっている。真谷家も紀ノ川と同じように、小作人たちにとっての絶対的な支配者であると同時に明日を生きる生活の糧である。自然も人間社会も同じであることがよく分かる。

 そしてもう一つ、紀ノ川には、親から子へと引き継がれる血縁という意味も込められているような気がした。どんなに激しく衝突しても最終的には同じ流れに収まっていく‥という世代の営み。まさに人生=川の流れのようである。

 映像もスケール感があって見応えがあった。冒頭の川下りのシーンは雄大荘厳で一気に作品の中に引き込まれる。今作の画作りの特徴として、奥行きを強調したタイナミックな構図、エッジを効かせた俯瞰ショットが挙げられる。色彩も屋外と屋内で抑揚をつけながら絶妙な明暗のコントラストが図られており、映像についてはほとんどケチのつけようがないほどに完成度が高い。

 中村登監督の演出は、特に奇をてらうような所がなく実に堅実である。床に臥す花の晩年に一部クドイと感じる部分はあったが、おそらく泣き所として強調したかったのだろう。やや安易な繰り返しに映ってしまったが、それ以外は堅実である。
 尚、本作で最も印象残った演出は自転車に乗る文緒を見た花が足袋のままで外に出てくる時の、足元のクローズアップ→パンアップであった。割と引きのショットが多い作品であるが、ふいにこうしたクローズアップを出されるとやはり映像に引き込まれてしまう。彼女の怒りの表情が印象に残った。

 武光徹の音楽は強烈な個性を発揮しすぎるため、いわゆる今作のような通俗的な大河ドラマには向いているとは言い難い。ただ、時折繰り出すインパクトは流石に武光で、映画に異様な緊迫感をもたらしており、こちらも見事であった。
[ 2012/05/08 01:14 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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