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放浪記

女流作家の半生を描いた伝記映画。
放浪記 [DVD]放浪記 [DVD]
(2005/08/26)
高峰秀子、田中絹代 他

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「放浪記」(1962日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 林ふみ子は母親と東京で行商をしながら粗末な下宿で暮らしていた。故郷で働く父から困窮しているという手紙を受け取った母は家に戻る。その後、ふみ子はあちこちの仕事を転々としながら、カフェの給仕に腰を落ち着けた。そこで詩人で劇団俳優の伊達という男と出会う。詩を描くのが好きだったふみ子は彼を信奉し同棲を始めた。ところが彼には内妻がいて‥。
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(レビュー)
 作家・林芙美子の自伝小説を名匠・成瀬巳喜男が監督した作品。貧しい生活を送りながら文壇で華々しく成功するまでを流麗に描いている。

 成瀬監督と林芙美子の相性はこれまでのフィルモグラフィーを見れば一目瞭然である。「めし」(1951日)、「稲妻」(1952日)、「浮雲」(1955日)等の代表作に示されるように、成瀬巳喜男は間違いなく林芙美子の原作に愛し愛された監督だった。したがって、彼女の半生を描いたこの私小説を彼が監督するのも理解できる。

 ただ、そうは言っても、実際に見てみると成瀬らしさは左程感じられない作品である。おそらく林芙美子という存在が余りにも突出しているからであろう。もはや成瀬作品ではなく林芙美子の作品と称した方が良いような映画である。

 映画はふみ子のナレーションで展開されていく。何か大きな幹となる事件があるわけではなく、彼女が辿った苦労の歴史が淡々と述べられていくだけである。いいささかエピソードの食い散らかしがあるが、その半生は中々ドラマチックで見応えがあった。

 中でも、彼女の男性遍歴は本ドラマを成す大きな要素で、詩人の伊達、作家の福地、隣に住む純朴なサラリーマン定岡といった男達との関係によって綴られていく。その遍歴は正しくタイトルが示すように、女が幸せを掴もうとしてもがき苦しむ"放浪"の旅である。
 ふみ子は最終的には文壇で成功するが、結局幸せな結婚は出来なかった。その原因はどこにあったのか?それがこの男性遍歴から何となく見えてくる。

 ふみ子は基本的に何事に対してもどっちつかずな態度で接する癖がある。貧乏な暮らしをまるで他人事のように受け止め、明日の風は明日吹く‥と呑気に語る。彼女は万事この調子で、男との関係も何とかなる、なるようになると言いながらズルズルと引きずってしまうのだ。誰でもない、彼女自身が自らを"放浪する身″にしているのである。

 ただ、この性格のおかげで、この映画は悲劇色が払拭されユーモラスになっている。仮に、これが苦しい死にたい‥を連発するヒロインだったら見ていてただの辛い映画になっていただろう。そういう意味では、この稀代のヒロイン像は本作の生命線という感じがした。正にキャラクター映画の典型である。

 ふみ子と交際する3人の男性陣も夫々に個性的な存在感を見せつけている。
 プレイボーイ気質な伊達は、女房の尻を追いかける情けない姿が印象的だった。ほとんどヒモのような男である。
 机の上でくすぶり続ける売れない作家・福地の病んだ姿も印象に残った。ふみ子が彼との生活に疲れ果て「泣きも笑いも出来ない女に訓練されていく」と愚痴るところは見るに忍びない。
 定岡の人の良さには何度もホッとさせられた。男として見た場合は魅力が無いのかもしれないが、安定した収入と明るい性格は3人の中で最も家庭人に適していると思う。本当はふみ子は彼と結ばれていれば貧乏せずに済んだはずである。ただし、そうなれば作家・林芙美子は誕生しなかった。運命とは実に数奇なものである。

 後半から映画はふみ子の文壇での成功を描いていく。この成功の裏側には彼女の"ある選択”があった。そこも興味深く見ることが出来た。ふみ子の選択を非情と取るか、仕方がないと取るかは意見が分かれる所だろう。しかし、これくらいのバイタリティーが無ければ厳しい世界を勝ち抜いていくことは出来ないのだと思う。何事も失わずして得られるものはない。その現実を見事に表していると思った。

 このドラマで唯一物足りなく感じたのは、ふみ子と母親の関係に深く迫り切れなかった点である。母への愛は確かにあったのだろうが、それが今一つ画面から伝わってこなかった。給仕の後輩トキの母親に自分の母親を重ねて見るエピソードは、唯一彼女の母への愛が感じられるシーンだが、それ以外は彼女が母をどこまで愛していたのか今一つ判然としない。終盤、成功したふみ子は親孝行のつもりで田舎から母を呼び寄せている。しかし、当の母親は何だか窮屈に感じているように見えた。

 尚、この「放浪記」は森光子主演の舞台でも多くの人々に知られている作品である。舞台版「放浪記」は彼女の「でんぐり返し」が一つの見所だったが、この映画にはそんなシーンは出てこないのであしからず。 
[ 2012/05/10 03:37 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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