異色のスタイルで描いた映画賛歌映画。
「アーティスト」(2011仏)
ジャンルロマンス・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1927年ハリウッド。サイレント映画のスター、ジョージは、出待ちしていた女優の卵ペピーとひょんなことから新聞の一面を飾ってしまう。これがきっかけで彼女はジョージに気に入られアドバイスを受けながら徐々にスター街道を駆け昇って行った。一方のジョージは、サイレントからトーキーに移り変わり過去の人となっていく。スタジオとの契約が切れた彼は、時代に逆らって敢えてサイレント映画を製作して自分のスタイルを貫いた。ところが、くしくもペピーが主演した映画と同時に封切られ興業は惨敗。大赤字を抱え込むこととなる。次第に酒におぼれていくジョージ。それを哀れに思ったペピーは‥。
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(レビュー) ハリウッド黄金期を舞台にしたラブロマンス作品。今の時代に敢えてモノクロ、サイレントというスタイルで挑んだ実験性が評価され、今年のアカデミー賞では見事に作品賞・監督賞・主演男優賞他に輝いた。
いわゆるレトロフィーチャーな企画物であるが、3DやらVFXやらが全盛の現代に敢えて映画の原初を見つめなおした意義は深いように思う。決して派手さはないが、映画の本質的な面白さを改めて知らしめてくれるような作品だ。
また、そこかしこに数々の映画のオマージュが込められているのも面白い。見ていて時々ニヤリとさせられた。
たとえば、本作のストーリーは「スタア誕生」(1937米)、あるいは1954年にリメイクされた
J・ガーランド版と同じ構造を持っている。今作のペピーとジョージは、「スタア誕生」でスターに登り詰めていく妻と凋落していく夫の残酷な対比になぞらえて見ることが出来よう。
また、ジョージの苦悩はC・チャップリンの伝記映画
「チャーリー」(1991米)でも描かれていたものである。もっとも、ジョージのモデルはチャップリンの盟友D・フェアバンクスという感じがするが、ともかくも当時は無声時代の俳優が次々とお払い箱になっていった時代である。これはG・ケリー主演の傑作「雨に唄えば」(1952米)でも描かれていたことであり、サイレントからトーキーへの移り変わりを舞台にした数々の映画のオマージュという見方も出来る。
他にもC・リード監督の「第三の男」(1949英)、B・ワイルダー監督の「アパートの鍵貸します」(1950米)、S・スピルバーグ監督の
「ターミナル」(2004米)のオマージュも見つかる。更には、往年のミュージカル映画を彷彿とさせるようなシーンも登場してくる。
このように、本作はあらゆる映画にオマージュを馳せながら、映画の素晴らしさ、感動といった物を我々に教えてくれている。”映画賛歌″映画としては、これ以上ないくらいの贅沢さに溢れている。
セリフに頼らない演出も冴えわたっていた。約1時間40分間、この演出スタイルが完遂されている。セリフに流されがちな昨今の情報量の多い映画との相違をはっきりと示しながら、映画の本来の魅力。つまり、映像が持つ力強さ、味わいといったものを引き立たせている。
例えば、ペピーがジョージの楽屋に入った時に見せる一人芝居には鳥肌が立った。他にも、ペピーのタップダンスを足元だけ見せる演出、落ちぶれていくジョージと上昇していくペピーがすれ違う階段のシーン、このあたりの巧妙な映像演出には舌を巻いてしまった。
また、鏡やフィルムといった小道具の使い方も、セリフ以上に雄弁にその意味するところを語っていて見事であった。
物語は非常にシンプル且つ楽天的である。これもサイレント映画の再現という本作の趣旨からすれば納得の行く所である。確かに見ていて不自然で強引に思える個所が幾つかあった。火事騒動における犬の行動、クライマックスにおけるジョージの心理変化等はリアリティに欠ける。ただ、前者はドラマチックさを狙ったものであろうし、後者は良くも悪くもハッピーエンドを良しとする当時のハリウッド主義の再現であろう。個人的には好意的に解釈したいと思う。
一方、セリフは無いが本作にはほぼ全編に渡って音楽が流れている。今作における音楽の位置づけは大変重要である。これも作風に合わせるかのように懐かしいテイストで固められている。そして、音楽が消えてまったく無音になるシーンが1か所だけある。ここだけエアポケットのように音が完全にシャットアウトされるのだが、この演出にも鳥肌が立った。
キャストも夫々に好演していると思った。ジョージを演じたJ・デュジャルダンはサイレント時代の演技をよく研究していると思った。口ひげを蓄えたその面構えから何となくC・ゲイブルっぽくもある。これも狙っているのかもしれない。現代のような複雑な心理を語るメソッド演技とは真逆のアプローチは人によっては好き嫌いがはっきり分かれようが、飄々と演じて見せた所は評価したい。
ペピーもいかにも庶民派的な女優で良かった。ただし、序盤と終盤にもう少し変化が欲しかったか‥。この落差が決まると落ちぶれていくジョージとの対比が更に増して良かったと思う。
おはようございます、ありのさんへ。
まず本題に入る前に、制作年が2001年となっているのが気になるのですが…。
この作品が、アカデミ-賞を取った事は素晴らしいですし、凄いと思います。それからありのさんへ、下高井戸(京王線、東急世田谷線下車駅)に「下高井戸シネマ」というミニシアター映画館があるのを見つけました。
もし、興味があるのなら僕も行ってみたいのですが・・・・。
こんばんは、にょろ~ん。さん。
ご指摘感謝します。早速訂正させていただきました。
おはようございます、ありのさんへ
レスありがとうございます。
3Dとデジタル撮影全盛時代に、あえてこの作品が「白黒サイレント」で挑戦した事に拍手を送りたいです。それから、僕が無声映画を始めた見たのは「モダンタイムス」が初めてでしょうか?
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