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グライド・イン・ブルー

アメリカン・ニューシネマの隠れた傑作!
グライド・イン・ブルー [DVD]グライド・イン・ブルー [DVD]
(2007/08/25)
ロバート・ブレイク

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「グライド・イン・ブルー」(1973米)star4.gif
ジャンル青春ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 アリゾナで白バイ警官をしているジョンは刑事になることを望んでいた。ある日、いつものように相棒デイビットと交通取り締まりをしていたところ、偶然老人の死体を発見する。自殺に見せかけた殺人だと睨んだジョンは、事件を担当するハーブ刑事の助手に抜擢されて捜査を開始していく。
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(レビュー)
 刑事に憧れる白バイ警官が夢破れていく様を渇いたタッチとスタイリッシュな映像で綴った作品。今一つ知名度の低い作品であるが、アメリカン・ニューシネマの隠れた傑作として評価する者も多い。

 事件の種明かしそのものは存外シンプルでサスペンス的な面白味は弱い。ただ、事件の裏側には孤独な人間の姿が見え一定の味わいを持った作品になっている。

 製作・監督・音楽はロックバンド、シカゴのプロデューサーでも知られるJ・W・ガルシオ。本作は彼が残した唯一の作品である。初監督ながら中々手練れた演出を見せている。

 まず、アバンタイトルのスリリングな銃撃シーンで一気に画面に引き込まれた。映画の"引き″としては申し分なく、この緊迫感は只事ではない。
 また、所々で見せるユーモアも楽しく見れる。例えば、ジョンとデイビットのやり取り一つとっても、馬鹿だなぁ~と思いつつも、後の顛末を想像してしまうとどこか抒情性もこみあげてくる。特に、下半身を丸出しにしてダンスするシーンは最高に笑えて泣けた。
 そして、なんと言ってもラストシーンである。延々と続くハイウェイを移動ショットで紡ぎながら、ジョンの夢破れていく姿を強烈に印象付けている。いかにもアメリカン・ニューシネマらしい虚無感漂う幕引きは実に心に残った。

 撮影監督コンラッド・L・ホールの働きも実に素晴らしい。彼はこれ以前に「暴力脱獄」(1967米)、「明日に向かって撃て!」(1969米)といったアメリカン・ニューシネマの傑作を撮っており、本作にもその卓越した映像センスはいかんなく発揮されている。荒野を写した美しい映像、奥行きを活かしたダイナミックな構図、極端なクローズアップ等、映画のクオリティをビジュアル面から支えている。

 キャストは決して有名な俳優が出ているわけではないが、夫々が自分のキャラクターに生々しい息吹を吹き込んでいる。
 ジョンは背の低い生真面目な警官で、そのキャラクター・タッチングは序盤で早々に明示されている。生真面目さゆえの不器用さというバックドアもきちんと図られており、すんなりと主人公としての立ち位置をはっきりと示している。
 反対に、彼の相棒デイビットは長身でズボラな性格の警官である。ジョンとのキャラクターの対比を図りながら、彼には彼なりの人生観、夢があることを明確に示唆し、これも生きたキャラクターとして上手く作り上げられていると思った。
 そして、もう一人のメインキャスト、事件を担当するハーブ刑事だが、こちらは表と裏の顔を持つ曲者的な存在感を出しながら見事なキャラ立ちを見せている。

 このように地味な顔ぶれながら、個々のキャラは魅力的に造形されている。
 ただ、確かに他のアメリカン・ニューシネマのように、強烈な個性を持ったアウトローといったものは登場してこない。それゆえ記憶に残りにくい作品と言われるのかもしれないが、そこは深く噛みしめれば他のアメリカン・ニューシネマの主人公たちと同等の、あるいはそれ以上の鮮烈さは感じ取れよう。

 尚、射撃練習場で「イージー・ライダー」(1969米)のポスターを標的にするシーンが登場してくる。言わず知れたアメリカン・ニューシネマの代表作だが、このポスターをわざわざ出してきたのは製作サイドの気を利かせたジョークだろう。
 「イージー・ライダー」の主人公はマリファナを積んで大陸を横断するヒッピーたちだった。そして、今作のジョンはヒッピーのコミューンに単身乗り込んでいる。相棒のデイビットは麻薬所持で無実のヒッピーを逮捕している。つまり、本作の主人公たちはヒッピーに対抗する"体制側"の人間達なのである。「イージー・ライダー」のポスターを使ったことは、"体制”対"反体制”という図式を示そうとした作り手側の狙いであろう。

 ただ、今作は"体制側"から描いた作品ではあるが、主人公たちの思考は決して権力サイドに寄っているわけではない。体制側にも、当然のことながら古い価値観を持った人間と新しい価値観を持った人間がいて、ここがこの映画のミソである。ジョンたちは古い価値観を持った上司に反抗して新しい価値観を実現させようとする若者たちなのだ。
 多くのアメリカン・ニューシネマが"反体制”側にスポットライトを当てていたのに対して、今作はまったく逆の立場、つまり"体制側"を主人公にした映画である。ただ、そこには確実に古きものを打破しようとするカウンターが厳然としてあった‥ということを、この映画は物語っている。ここが他のアメリカン・ニューシネマにはない、今作の大きな特徴だろう。一際異彩を放った作品だと言える。
[ 2012/05/15 01:47 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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