独特の感性で描かれた恋愛ドラマ。
「ウルトラミラクルラブストーリー」(2009日)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 軽度の知的障害を持つ青年・陽人は、青森で祖母と野菜作りをしている。軽トラに乗って野菜を売っていたところ、近所の幼稚園に赴任してきた保母・町子に出会い恋に落ちる。彼女は不幸な事故で恋人を亡くし、カミサマと呼ばれる占い師に相談するために東京から青森に引っ越してきた女性だった。町子は今でも死んだ恋人のことが忘れられなかった。そんなある日、陽人は近所の子供とふざけて農薬を浴びてしまい‥。
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(レビュー) ADHD(注意欠陥・多動性障害)を持った青年と、恋人を亡くした女性の触れ合いを、のどかな青森の農村を舞台に描いた恋愛ドラマ。
基本的には純愛路線のロマンス・ストーリーだが、一筋縄ではいかないクセを持った作品で好き嫌いがはっきり分かれると思う。個人的にはこういうブラックでシュールなドラマは割と好きである。
ただ、後半である事件が起こり、それ以降のくだりが性急に写った。陽人と町子の関係が急に接近してしてしまった感じがして、後半から今一つのめり込むことが出来なかった。それまでの二人の微妙な距離感が独特の雰囲気を漂わせていて好きだっただけに惜しまれる。ちなみに、東京の病院へ行くエピソードもストーリー上、不要に思えた。
監督・脚本は新鋭・横浜聡子。未見であるが自主制作した前作「ジャーマン+雨」(2006日)で注目を集めた才人である。
今作を見る限り、彼女の作家としての資質はキャラクターの造形の仕方から伺える。軽度とはいえ障害を持ちながら田舎で野菜作りをしている青年。首なし恋人に取りつかれながらカミサマの声に耳を傾ける傷心の女性。主役二人をこうした特異な設定に据えたことからして、単純な恋愛ドラマにしようとしてない監督の意気込みが伝わってくる。
そして、後半の現実とも虚構ともつかないシュールでナンセンスなシーンの数々、終盤のブラックなオチにも横浜監督の独特の感性が伺える。直接的に視覚に訴える刺激的な演出は何となくL・ブニュエルに近い感じもするが、いずれにせよこのセンスは今の日本映画界にあっては非凡と言える。
主演に松山ケンイチ、麻生久美子というイケメン&美女を持ってきたことも特筆すべきであろう。監督デビュー作にして人気俳優である二人の持ち味を上手く引き出した演出センスには唸らされる。特に、前半における二人のオフビートなやり取りには味わいが感じられた。また、このキャストを当て込んだプロデューサーの尽力も相当あるように思う。普通はここまで風変わりな作品に、しかも新人監督の映画に、こうした人気俳優は出演しないだろう。
横浜作品は今回が初見だったが、後半の作劇を除けば、全体的には中々面白く見れた。この独特の感性で今後もますます日本映画界を活性化させていって欲しいものである。密かに期待したい。