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鬼畜大宴会

後半のイカレっぷりは前代未聞である!
鬼畜大宴会 [VHS]鬼畜大宴会 [VHS]
(2000/07/20)
三上純未子

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「鬼畜大宴会」(1997日)星5
ジャンル青春ドラマ・ジャンルアクション
(あらすじ)
 1970年代初頭、左翼系学生が集うアパートの1室で男女がセックスに興じていた。女は服役中の組織のリーダー相澤の恋人・雅美。男は組織の最年長・山根。来るべき蜂起に備えて準備を整えていたが、学生運動が縮小する中、彼らは次第に自堕落な生活を送るようになっていた。その後、山根は雅美の運動方針に反発し組織を出て行った。そこに刑務所で相澤の思想に同調した青年・藤原がやって来る。一同は歓迎の杯を上げるが、組織の一人・熊谷だけは不満な態度を示した。雅美はこれ以上脱落者が出ないように彼を誘惑して引き止めた。その頃、獄中の相澤は割腹自殺をする。
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(レビュー)
 学生運動の崩壊を過激なバイオレンス描写で綴った問題作。

 監督・脚本・編集は熊切和嘉。大阪芸大の卒業制作だった本作は、その余りにも衝撃的な内容から劇場公開されるに至ったという伝説を持っている。国際的にも評価が高く(?)、まさかのベルリン国際映画祭上映という快挙まで成し遂げた。熊切監督は本作をきっかけに商業デビューを果たした。

 何と言っても、見所となるのは壮絶なバイオレンスシーンである。劇中に映し出される残酷描写はかなりのもので、日本映画界でこれを凌ぐ作品は無いのではないか?というくらいの鬼畜振りである。かつての新東宝系の見世物ジャンル映画との類似も感じられるが、演出が過激な分、こちらはもはやトラウマ・レベルの衝撃度である。タイトルの「鬼畜大宴会」とは言いえて妙である。

 当時の機運といったものも画面から十分に伝わってきた。確かに見世物的な趣向を余りにも優先させた結果、ストーリーはお座なりで学生運動の何たるかといった大切な部分は描き方が不足していると感じた。真摯に向き合っていないという意見も出てくるかもしれない。しかし、自分は大島渚や若松孝二の作品を見ていたので、彼らがなぜ内紛を起こし自暴自棄な行動に走っていったのか。その理由は汲み取ることが出来た。

 たとえば、前半で見られる学生たちの脱力振り、あるいは熊谷に誘われて運動に参加し何も発言出来ないまま流れに身を任せてしまう新入生・杉原の覇気の無さは当時の"シラケ・ムード"を見事に捉えていると思う。学生運動の斜陽が必然であったことがよく分かる。

 また、なぜ熊切監督がこの時代設定にこだわったのか。その狙いも何となく理解できた。
 一つには戦前派と戦中・戦後派である団塊世代を明確に区分けしたかったのではないだろうか。太平洋戦争を境に社会は大きく変化した。当然日本人も思考や生き方を変えざるを得なくなってしまった。戦中・戦後派の若者たちは政治闘争という手段を持って社会に抗した。しかし、戦前派の大人たちに抑え込まれると急激にその運動は冷めて行った。この全共闘世代の末裔が現代の若者たちであるのだとしたなら、ここで描かれる凄惨な光景は現代の"写し鏡"という解釈も出来るのではないだろうか。おそらく、熊切監督は全共闘世代以降、連綿と続く閉塞的な若者たちの姿を描いて見せたかったのかもしれない。

 演出は終始荒々しく扇情的である。
 例えば、雅美は獄中にいる恋人・相澤の代わりに、組織の男たちを手当たり次第に誘惑していく。そこで描かれる一連のセックスシーンは実に赤裸々でえげつなく撮られており、生々しさと滑稽さが入り混じった不思議なテイストをまき散らす。そして、彼女は女帝のごとく組織の頂点に君臨し、反発する者には次々とリンチを加えていく。思うようにならない苛立ちと憤りがセックスと暴力によってしか解消されないこの現実。一度タガが外れたしまった破壊衝動は、若松孝二監督の「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(2007日)でも描かれていたことだが、そこをバカバカしいほど過剰にやってのけた熊切監督の演出は実に野心的と言える。

 静と動のメリハリのつけ方、省略演出にもセンスの良さが伺えた。他にも、サブリミナル効果を狙ったようなショッキングな演出も実験的で面白い。一部で不自然な箇所も見られたが、何せ大学生の卒業制作作品である。それを考えれば全体のクオリティは高い方と言えるだろう。

 また、クライマックスの場所となる廃校は、雅美たちの孤立感、絶望感、運動の終息を表すには絶好の舞台に思えた。このロケーションの選定も良い。

 キャストは小劇団の俳優や素人で占められている。演技力が抜群に上手いという人はいないが、血のりや汚物にまみれながら夫々に身体を張って頑張って演じていると思った。
 中でも、途中から組織に加わる藤原を演じた俳優の存在感は群を抜いて印象に残る。彼は獄中のリーダー・相澤の信念を受け継いだ者として運動に参加していくのだが、崩壊していく組織をまるで死んだ相澤の代弁者のように達観した眼差しでクールに見つめる。雅美でさえ彼には命令できない。それは彼が相澤の分身であり、狂気を隠し持った得体の知れない存在に映ったからに違いない。寡黙で不敵で何を考えているのか分からない‥そんな風貌がとても魅力的であった。彼がいることで組織内のパワーゲームも面白く見れる。

 尚、助監督に「松ヶ根乱射事件」(2006日)などで知られる映画監督・山下敦弘がクレジットされている。彼も本作の後に監督として商業デビューを果たしている。
[ 2012/05/31 02:25 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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