人間の愛欲を痛烈に皮肉った戦慄のサスペンス作品。
「私が、生きる肌」(2011スペイン)
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ) 世界的な形成外科医ロベルは、遺伝子実験による人工皮膚の研究をしていた。彼の屋敷には秘密の実験室があり、そこにはベラという女性が監禁されていた。彼女の世話はメイドとして働く中年女性マリリアがしている。ある日、消息不明だったマリリアの息子セカが屋敷を訪ねてきた。彼は強盗犯として追われる身だった。不憫に思ったマリリアは彼を屋敷に入れるが、これが思わぬ事件を引き起こしてしまう。
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(レビュー) 失われた愛を取り戻そうとする天才形成外科医の恐るべき実験を描いた戦慄のサスペンス映画。
同名原作をスペインの巨匠P・アルモドヴァルが大幅にアレンジして監督した衝撃作である。
これまでも人間の愛憎を深く抉り出してきた氏だが、今回はまるで初期時代を思わせるようなえげつない描写の連続で人知を超えた異常性愛を赤裸々に暴いて見せている。好き嫌いがはっきりと分かれようが、まさにアルモドヴァルにしか描けない特異な作品という気がした。
出だしこそフランケンシュタインよろしくマッド・サイエンティストの孤独なドラマが語られるのだが、途中で実験体であるベラにまつわる恐ろしい過去が解明かされることで、登場人物が複雑に入り乱れた愛憎ドラマに発展していく。ロベルとベラの回想を交錯させたミステリアスな語り口に引き付けられた。
出来るだけ予備知識なしで見た方が驚きも大きいと思うのでネタバレは避けたいと思う。ただ一つ、先述のフランケンシュタインになぞらえれて考えれば、この物語は人間の底知れぬ愛欲を皮肉ったドラマであることは確かだ。その贄となった"怪物"の怒りと悲しみは、見ているこちら側に痛切に突き刺さってくる。
要は、外見は変えられても人間の心までは変えられない、失われてしまった愛を取り戻すことは難しい‥ということなのだろう。しかし、それでも人間は過去の愛に捉われ狂気的行動に走ってしまう弱い生き物である。ここで描かれるロベルの実験が正にそのことを証明しており、人間の愚かさを見せつけられているような気がしてほとほと嫌な気分にさせられた。
そして、映画はロベルとベラの愛憎ドラマの背景で、もう一人の重要人物、屋敷で働く中年女性マリリアのドラマについても描かれていく。長年疎遠だった愚息セカが現れたことで"ある事件"が起こるのだが、これをきっかけにして彼女の過去も明らかにされていく。これもロベルの異常な愛同様、実に恐ろしいものに思えた。ただ、彼女の場合は辿ってきた人生が筆舌に尽くしがたいほど残酷なもので、彼女の愛が最後まで届かなかったことも含め、一定の憐憫の情も湧いてしまう。こちらもかなり悲劇的な結末を辿り、胸に突き刺さってきた。
カラフルな配色やスタイリッシュな装飾で埋め尽くされた画面も見応えがあった。小洒落たコマーシャリズムな景観に猥雑さが入り混じり、この独特なキッチュな感性は正しくアルモドヴァル・ワールドの真髄と言っていいだろう。今回は屋敷内のシーンが大半を占めるので、凝ったセットの数々が余計に際立って見えた。
キャストではベラを演じたエレナ・アナヤの完璧な美貌と体型が印象に残った。肌に張り付いたボディ・ストッキング(ジャン=ポール・ゴルチエ のデザイン)姿にはフェティッシュなエロスを感じてしまう。
このコメントは管理人のみ閲覧できます
これはまだ見てないんですよ。
なのであらすじだけ読ませていただきました。予告にも興味をひかれたし、ありのさんのレビューにも(さらりと流し読み)関心大です。早くレンタルしたくなりました。
かなり倒錯した恋愛サスペンスですからね。
真っ暗な映画館で見るのも良いですが、一人でこっそりと見るのも良いかもしれません。
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