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八日目の蝉

事件の背後に潜む悲劇のドラマに泣かされる。
八日目の蝉 通常版 [DVD]八日目の蝉 通常版 [DVD]
(2011/10/28)
井上真央、永作博美 他

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「八日目の蝉」(2011日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 今から20年前、世間を賑わせた一つの誘拐事件があった。OLをしていた野々宮和子は不倫相手の子供を宿し、中絶して二度と赤ん坊を産めない体になってしまった。その恨みを果たさんと、不倫相手の幼子・恵里菜を誘拐した。そして現在。事件は解決し、大学生になった恵里菜は一人暮らしをしていた。過去の事件から母親との折り合いが悪く、彼女は早々に独立したのである。そこにフリーライター・千草が当時の事件を取材させてほしいとやって来る。
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(レビュー)
 誘拐事件によって人生を狂わされてしまった人々の悲しみをシリアスに綴ったヒューマン・サスペンス映画。直木賞作家・角田光代の同名ベストセラーの映画化である。

 物語は20年前の誘拐事件と事件後の現在を交錯させながら描いていく。現在パートは誘拐された恵里菜のドラマになっているが、過去パートは恵里菜と誘拐犯・和子、夫々の悲劇に焦点を当てたドラマになっている。

 率直な感想としては、よく考えられているストーリーと感心させられた。
 事件のあらましを徐々に解き明かしながら恵里菜の悲しみを浮き彫りにしつつ、その一方で誘拐犯である和子の悲しみについても丹念に綴られている。二人が交錯した過去が現在にフラッシュバックされ、この数奇な運命には涙するしかない。

 幼い頃から誘拐犯である和子を母親だと信じ込まされて育てられた恵里菜の悲しみは言うに及ばず、加害者である和子についても一定の情を禁じ得ない。不倫に溺れたこと、妊娠中絶したこと、誘拐したこと、全ては彼女自身の愚かさからくるものであり、そこについては和子は責任を負うべきであろう。しかし、事件を起こす所まで彼女を追い詰めたそもそもの原因は、不倫相手である恵里菜の父親にある。和子にも被害者的な側面はあるのだ。彼女は孤独な女性だった。困った時に助けてくれる友人や家族もいない。誰にも相談することが出来ず一人で抱え込んでしまった結果、このような誘拐という凶行に走ってしまったのであろう。もし周囲に彼女を支えてくれるような人がいれば‥そう思わずにいられなかった。

 一方の恵里菜にも、事件の不幸は付いて回る。現在パートは彼女を中心に描かれているのだが、実は中盤あたりで彼女は"ある問題″を抱え込むことになる。これが運命の悪戯としか言いようがないもので、20年前に自分を誘拐した和子が陥った状況と全く同じ状況に彼女自身も追い込まれてしまうのだ。当然、恵里菜もこの問題に苦悩するようになる。ただ、和子と違う所は、彼女には千草という友人が傍にいてくれたことだ。
 千草は誘拐事件の取材を申し込んできたフリーの記者である。最初は彼女に距離を置いて接するが、一緒の時間を過ごすうちに友情めいた関係で結ばれていくようになる。つまり、事件の悲劇を背負って生きる恵里菜にとっての良き理解者であり、人生を応援してくれるサポーターのようなに存在になっていくのだ。
 最終的に恵里菜はこの"ある問題"に和子と異なる決断を下す。これは彼女自身の強い意志からくるものであるが、傍にいてくれた千草という存在も大きかったのではないだろうか。

 それと、20年前と現代とでは、女性の人生観、結婚観、母親感というのも大分変わってきたように思う。昔より離婚率は高くなっているし、それによって母親が子供を一人で育てることも多くなってきたと思う。そういう意味では、和子と恵里菜、二人の選択の違いは時代を反映させたものとしても興味深く捉えることが出来た。

 惜しむらくは結末が少しあっさりしすぎていた所だろうか‥。今一つパンチに欠ける。もう少し盛り上げても良かったような気がした。

 演出は基本的にリアリティなタッチに拠っている。長回しを効果的に使いながら、人物の心情を漏れなく収取した所に見応えを感じた。特に、印象に残ったのは恵里菜と恋人のベッドシーンである。恵里菜を演じた井上真央が背中しか見せなかったのは、それこそリアリティに欠ける演出で不満だったが、表情が抜群であった。また、過去パートのクライマックスとも言うべき誘拐事件の結末には泣かされた。このあたりの抑揚のつけ方も中々上手かったと思う。

 ただし、どうしても詰めの甘さが幾つか見つかるので、満点とまではいかない。
 所々に登場するキャラクター、シチュエーションに、一部違和感を覚える物があった。その最たるはカルト教団の長の造形である。これではほとんどコントのようにしか見えない。また、細かい所で言えば、教団からの脱走シーンも普通に考えたら皆が寝静まった夜の方が自然であろう。どうせその直後に夜のシーンにつなげているのだから、別に早朝にする必要性はない。また、写真屋のキャラが立ちまくっていたのも全体のバランスからすると不自然に映った。
 千草のキャラも作りすぎていている。人見知りなコミュニケーション下手というキャラクターで、小池栄子が過度に演じてしまっている。人物像に深みをもたらすなら、もう少しさりげなく演出した方が良かっただろう。実は、千草にも秘密の過去がある。その過去を含めキャラクター自体は非常に魅力的なのだが、彼女の過剰な演技によってそれが台無しになってしまっている。
[ 2012/06/08 01:20 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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