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原爆の子

新藤監督の反戦メッセージが徹底した傑作。
原爆の子 [DVD]原爆の子 [DVD]
(2001/07/10)
乙羽信子、滝沢修 他

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「原爆の子」(1952日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ・ジャンル社会派
(あらすじ)
 広島に原爆が投下されてから5年後。離島で学校教師をしている孝子は、両親を被爆で亡くし、今は伯父夫婦の家で暮らしていた。彼女は休暇を利用して元の教え子たちを訪ねることにした。そして、広島に着いて早々、彼女はかつて家で働いていた岩吉と再会する。彼は被爆で顔が焼け爛れ一人でバラック小屋に住んでいた。唯一の家族である孫・太郎は孤児院に入っているが、そこにはある問題があった。その話を聞いて不憫に思う孝子。その後、彼女は元同僚の家を訪ねて、生き残っている3人の子供たちの住所を教えてもらう。早速、彼らの元を訪ねるが、皆夫々に被爆の被害で苦しんでいた。
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(レビュー)
 一人の女性教師の目を通して被爆の現実を描いた社会派人間ドラマ。

 まだ戦争の傷跡が癒えない当時、映画に限らず新聞、文学、あらゆるメディアはGHQによる統制下にあり、原爆について語ることは一切禁じられていた。GHQは1952年に日本から撤退するが、本作はその直後に製作された作品である。日本で初めて原爆について描いた映画ということになる。

 監督・脚本は新藤兼人。原爆の被害にあった人々の悲しみと憤りが作品からダイレクトに伝わってきた。実に力強いメッセージを放つ傑作だと思う。

 物語は、孝子が原爆の被害にあった3人の元教え子達の家を訪ねることで展開されていく。彼らを前にしてどうすることも出来ない非力さ、彼らの幸せを一瞬のうちに奪ってしまった原爆に対する憤り。それが孝子の視線を通して静かに綴られている。
 新藤監督はこれを変に作り物臭いものにせず、まるでドキュメンタリーでも見ているかのようなスタイルで撮っている。客観的眼差しを貫いたことで、被爆という現実にも一層の重みが感じられた。

 その一方で、映画はかつて孝子の家で働いていた下男・岩吉のドラマも描いていく。被爆者という差別に耐えながら孤独な暮らしを送る彼は、孤児院暮らしの孫・太郎を引き取るかどうかで葛藤する。そして、そんな彼を不憫に思った孝子は自ら進んでこの問題に立ち向かっていく。それまで3人の元教え子たちに対して常に客観的な立場を取ってきた彼女が、ここで初めて被爆という問題に自らの意志で立ち向かっていくのだ。敢えて辛い決断を下すのである。

 映画は彼女のこの決断をもって終幕する。素直に受け止めれば、彼女の行いは戦争に芽吹いた一つの希望の兆しと捉えるられるかもしれない。
 しかし、その一方でそう安易な美談として片づけることが出来ない辛辣さも感じられた。というのも、映画のラストは、上空を飛ぶ不気味な飛行機の音で締めくくられている。これは、戦争はまだ終わていない‥というメッセージではないだろうか。だとすると、孝子の決断をもって「良し」とするのは少し単純な感じもしてしまう。岩吉のような被爆者が他にもまだたくさんいるという現実、そのことを忘れないでほしい‥という監督からのメッセージのようなものが感じられた。

 被爆と被曝では言葉の意味が全く異なるが、昨年の巨大地震のこともあり、何となく遠い昔に作られた映画のようには見れなかった。

 ひたすら過酷なエピソードが続くが、中には安堵させられるエピソードもあった。孝子が3番目に訪れる元教え子のエピソードに登場する姉の結婚話である。今村昌平監督の「黒い雨」(1989日)を見るとよく分かるが、現実にはここまで上手くいくのは稀だろう。しかし、こうした救われるエピソードが入ることで、見る方としても随分と気分が楽になる。このメリハリの付け方は、長年シナリオライターとして実績を積み上げてきた新藤監督ならでは手練だと思う。陰鬱なドラマだけで終わらせなかった所に作劇の上手さを感じた。

 演出も実にこなれた物を見せてくれている。ただ、教会のシーンの口上が教示的過ぎるのと、子役の演出が少し雑に見えたのは残念だった。特に、太郎の演技が終盤にかけて弱く映るのはいただけない。彼は重要な役所なので、もっと念入りな演出を心掛けてほしかった。

 本作はテーマが崇高に発せられているという時点で紛れもない傑作になっていると思う。しかも、当時でしか見れない風景が見れるという意味においても稀にみる傑作である。新藤監督は他にも反戦映画を撮っているが、これほどシリアスにテーマを突き付けている作品は他にないと思う。そういう意味では、彼のフィルモグラフィー上、特別な意味を持った作品のように思う。
[ 2012/06/14 01:46 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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