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第五福竜丸

実話の映画化。被爆の恐ろしさを悲喜劇の絶妙なバランスで料理した所に上手さを感じる。
第五福竜丸 [DVD]第五福竜丸 [DVD]
(2001/07/10)
宇野重吉、乙羽信子 他

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「第五福竜丸」(1959日)star4.gif
ジャンル社会派・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 1954年1月22日、静岡県焼津漁港からマグロ漁船第五福竜丸が出港した。漁船は当初予定していた航路を外れ、3月1日ビキニ環礁付近でアメリカの水爆実験に遭遇する。2週間後、帰港した乗員23名は全員原爆症と診断され緊急入院した。一方、マスコミ は大々的にこの事件を取り上げ、日米間の責任問題にまで発展。乗員達と家族の運命も大きく変化していく。
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(レビュー)
 マグロ漁船がビキニ環礁でアメリカ軍の水爆時実験の被害にあった、いわゆる第五福竜丸事件を描いた作品。

 監督・脚本は新藤兼人。「原爆の子」(1954日)で広島の被爆を描いた新藤監督は、同年に起こったこの事件に改めて憤りと恐怖を感じたに違いない。独自プロ、近代映画社製作で製作された本作は、再び被爆の恐ろしさについて訴えかけている。「原爆の子」同様、テーマは力強く発せられていると思った。

 物語は、この事件の被害者・久保山の視線を通して描かれる群像劇になっている。若い娘と交際する青年乗員、事件を追いかける記者、久保山達を診断する医者。様々なエピソードが全体のドラマを紡いでいく。ただ、全てのエピソードが完結しているわけではなく、中には中途半端なまま放り出されて終わってしまっているものもある。全体の鑑賞感に物足りなさを覚えるほどではないが、久保山以外の周縁ピソードに若干ムラを感じた。

 演出は終始ドキュメンタリー・タッチが貫かれている。第五福竜丸がどうして実験の被害に遭ったのか?それを順序立てて描きながら、中盤からは事件を巡る日米外交やマスコミ騒動などが描かれていく。これを見るとこの事件がいかに世界に大きな衝撃を与えたがよく分かる。客観的な視線が貫かれたところに作り手としての真摯な姿勢が伺えた。

 特に、事件の状況を克明に再現した前半は、相当取材したのだろう。かなりのリアリティが感じられた。爆発の衝撃波が光を見た3分後に訪れたという事実。乗員の「西から太陽が上がった」というセリフ。広島と長崎の原爆投下から約10年経つが、当時の人々には被爆の知識が十分でなかったことも伺える。当人たちの飄々としたやり取りが余計に恐ろしく感じられた。

 事実に即した記録映画的な作りの一方で、今作には劇映画的な面白さもふんだんに盛り込まれている。
 メインのエピソードとなるのが久保山と妻の夫婦愛のドラマである。ラスト直前の列車のシーンは事実なのか創作なのか分からないが、人間の慈しみの心というものが実感させられ涙を誘われた。感傷的に盛り上げたくなる所だが、ここでも新藤監督は冷静な演出を忘れない。

 また、今作には絶妙な按配でブラック・ユーモアも配されている。頭の固い社会派映画にしたくなかった‥という新藤監督の狙いみたいなものも感じられた。扱う題材が題材だけに際どい表現も多いが、このあたりの硬軟自在の演出センスには唸らされるものがある。
 たとえば、放射能を浴びて真っ黒になった船員たちが、互いに顔を見て「土人がうどん粉を舐めたようだ」と言って笑いあう姿。初めて見たガイガーカウンターの音に驚いて右往左往する姿、入院部屋にテレビ局からテレビが送られてきて大喜びする姿など、普通に考えたら居たたまれなくなるような場面にユーモアを配している。こうした"笑い"に目くばせしながら新藤監督は被爆の恐ろしさを訴えかけている。

 そもそも、考えてみれば、小さな港町の無名の漁師たちが世界の注目を集めることになってしまったのだから、これほど冗談めいた話もないだろう。これは作ろうとしても中々作れない。正に事実は小説よりも奇なり‥である。
[ 2012/06/16 01:37 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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