ほろ苦い鑑賞感が少年の成長をまぶしく見せる。
「かいじゅうたちのいるところ」(2009米)
ジャンルファンタジー・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 父親がいない少年マックスは、寂しさからつい母親に悪態をついて家を飛び出してしまう。そして、かいじゅうたちが暮らす空想の世界に飛び込んだ。マックスはそこで偽者の王としてかいじゅうたちに迎えられ友情で結ばれていくようになる。
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(レビュー) 空想の世界で様々な冒険をしていく孤独な少年の物語。
世界的ベストセラーになっている絵本を鬼才S・ジョーンズが監督した作品である。S・ジョーンズと言えば少々癖のある映像派作家で、決して万人向けの作品を撮ってきた監督ではない。今作にも彼の才能はいかんなく発揮されているが、果たしてはどれだけの人に受け入れられるかは疑問である。しかし、通俗的なファンタジー映画とは一線を画す、実に"面白味"のある作品になっている。
元が絵本とはいえ、いわゆる子供向けの作品とは言い難い内容で、たとえばマックスの現実逃避である空想世界での冒険談は、彼の成長と共にハッピーエンドを迎えるかと思いきやそうはならない。彼は"かいじゅうたちのいるところ″に楽園を作って皆で楽しく暮らそうとするのだが、仲間割れが起こり安住の地とはならないのだ。普通の子供向け作品なら、王として楽園世界を完成させて現実世界に舞い戻る‥となろうが、まったく正反対の結末で締め括られる。彼が望んだ空想世界も所詮は現実世界と同じで夢も希望もない世界だった‥という残酷な結末。つまり敗北の苦みを味わってマックスは現実の世界に戻ってくるのだ。
幾ばくかのほろ苦さを伴う結末は、決して万人に受け入れられるものとは言い難い。しかし、幻想世界が正に幻想でしかなかったことを知り、現実に正面から向き合おうとするマックスの姿には"成長"というテーマがきちんと織り込まれている。現実をありのままに受け入れていかなければならない‥という現実主義的な結末にかなりの歯ごたえを感じた。
果たして原作はどうなっているのか分からないが、コテコテなシュガーコートで観客を魅了し夢と希望に溢れたファンタジーの世界を提示して見せる作品とは明らかに異なるテイストを持った作品である。
尚、アナクロニズムに造形されたかいじゅうたちは、その外見とは裏腹に飛んだり跳ねたり、かなり俊敏である。顔だけ見ると決して可愛いわけではないのだが動き出すと奇妙な愛嬌が出てくるから不思議だ。
また、かいじゅうたちは、全てマックスの心理メタファーとして造形されていることにも注目したい。嫉妬や不信、怒り、シニズムといったネガティブな心情を体現したキャラクター達で、かいじゅうたち=マックスなのである。したがって、彼がかいじゅうたちに王として迎え入れられるのも合点がいく。何しろ相手は自分自身なのだから‥。
そう考えると、かいじゅうたちとの別れは、過去の自分との決別という解釈も出来よう。幻想を捨てて現実を受け入れていく一抹の寂しさにはキュンとなってしまった。
映像は森や砂漠、海といった大自然の風景が美しく撮られていて良かった。場面によってはマックスが見る幻想世界をシュールに切り取っていて、これも面白かった。