荒んだ青春を送る男女の刹那的なロマンス。
「ゆけゆけ二度目の処女」(1969日)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルロマンス・ジャンルエロティック
(あらすじ) マンションの屋上である少女が複数の男たちにレイプされた。その中の一人が少女を気遣って介抱する。少女はレイプされたのはこれで2度目だと言う。そして、自分を殺してくれと青年に頼んだ。
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(レビュー) レイプされた少女とそれを見殺しにしてしまった青年の愛憎ドラマ。
マンションの屋上と階下だけで繰り広げられる二日間の密室的寓話で、解放感に満ちた青春ロマンスとは真逆の息苦しい映画である。上映時間も70分足らずという短さで、二人の生々しいやり取りが実に濃厚に、そして緊迫感に溢れたダイアローグによって表現されている。
少女と青年が抱える過去は実にヘビーである。レイプされた少女は青年に自分を殺してと頼む。死にたければそのまま屋上から飛び下りれば済むわけであるが、彼女は敢えて青年にそのようなことを言うのだ。何故か?それは過去に両親が自殺したことに関係している。少女は彼らのような惨めな死に方だけはしたくないと思っているのだ。おそらくだが、自殺は自分の負けを認めるような気がして嫌なのだろう。
一方の青年は自殺未遂の経験がある。童貞で性不能というコンプレックスを抱えながら暗い日常を送り、家庭環境にも大きな問題を抱えている。彼は少女がレイプされるのを見て初めて性衝動を覚え惹かれていく。しかし、そもそも自分のことを殺してくれという少女にその思いは伝わるはずもない。
映画は終始、彼らの噛み合わない会話を中心に展開されていく。そして、クライマックスで"ある事件"が起こり、それをきっかけにして、少女の死にたいという絶望感、青年のセックスしたいという欲情が刹那的な形で止揚されていく。
自分は不思議なことにこの結末にそれほど嫌な感じを受けなかった。普通ならこれだけ陰鬱なムードが続くと見ていて気が滅入ってしまうものだが、この結末がある種のカタルシスを呼び嫌いになれないのだ。もしかしたらこれが彼らにとってのハッピーエンドなのではないか?とすら思えてしまう。むろんこれは見る人の解釈次第だが、自分はこういう形で青春の一瞬の輝きを見せてくれたことに妙な愛着感を持ってしまう。
監督は鬼才・若松孝二。今作は低予算なモノクロ映画であるが、モノトーンの特質を効果的に活かした演出には目を見張るものがある。例えば、レイプされた少女の股間から一筋の血が流れる序盤のショット。これは屋上に干された真っ白なシーツとの対比によって、事の残酷さを強烈に印象付けることに成功している。その後のシャワーのシーンも秀逸だった。他にも本作にはこうした美的感性に満ちた映像ショットが幾つか見られる。
そして、極めつけはカラーで描かれる回想シーンだろう。今作は基本的にモノクロだが二人の回想シーンだけはカラーに切り替わる。普通なら画面に華やかさや生き生きとした印象を植え付けるはずのカラーが、ここでは残酷さ、醜さを見せるための演出として使用されている。これも面白い。
所々のセリフにも面白いものが見つかった。脚本は若松の盟友・足立正生(出口出名義)である。
「二十歳になったら20階から飛び降りて死にたい」
「落ちるまで何秒かかるかな?」
「5秒くらい?」
「1秒でいいわ」
こうしたユーモアを利かせたクールなセリフ、あるいは詩的で思慮に富んだセリフが時々登場してハッとさせられる。
音楽も独特な味わいがあって面白かった。特に、二人が歌う歌詞は要注目だろう。その意味を辿っていくと完全に錯乱しているとしか言いようがないのだが、一方でこれが彼らの「本音」であることもよく分かってくる。
例えば「ゆけゆけ二度目の処女」という映画のタイトルは、少女が歌う歌詞に登場してくる。「二度目の処女」の意味を探りながら耳を傾けていくと面白い真実が見えてくる。
一方、少年が歌う歌詞からも興味深い心理が読み取れる。いわゆるマザコン的なニュアンスが嗅ぎ取れ、精通できない悲しみと反逆心が歌詞の内容に狂おしいほどに投影されている。